フッ素を塗っていたのに、むし歯はできる?

Question 歯科医院でフッ素を塗っていたのに、むし歯ができてしまいました。なぜですか?

Answer よく誤解されますが、フッ素だけではむし歯は防げません。

 フッ素を塗っただけでは、むし歯の予防はできません。むし歯に限らず、病気にならないようにするには原因を知り、それに対する対策が必要です。

 むし歯は「歯」「細菌」「食物」の三つの要素の存在により起こります。いずれの要素も完全になくすことはできません。そこで、おのおのの要素のかかわりを変えることで、むし歯の予防を考えなければなりません。

 まず歯ですが、歯がなければもちろんむし歯にはなりませんが、食事ができません。歯が細菌の出す酸で溶けるとむし歯になるので、溶けにくくすればむし歯になりにくくなります。

 それはフッ素が有効です。いくつかの方法のなかで、歯みがき後のフッ素の使用(洗口、ジェル、スプレーなど)は歯を強くするだけでなく、細菌の活動を低下させるといわれており、歯みがきが充分できないお子さんには効果的です。

 次に細菌ですが、細菌の数が少なければ作られる酸の量が少なくなり、歯を溶かすのに時間がかかります。結果としてむし歯になりにくくなります。このためには、細菌の巣となる歯垢を毎日の歯ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)で取り除くことが必要です。

 最後に食物ですが、主に砂糖などの糖質が問題です。糖質は細菌が活動するための栄養となります。栄養源がなければ細菌の活動は活発にはなりません。

 おやつには菓子類が多いと思われますが、回数や内容はむし歯の発生に大きく関係します。また、飲み物の糖質についても配慮が必要です。おやつのとり方に工夫をしてみてください。

むせやすいお年寄りの歯みがきはどうすればよい?

Question むせやすいお年寄りの歯みがきはどうすればよいのでしょう。口臭がひどいのですが、歯ブラシを口に入れるのをいやがるのです。

Answer 唾液を吐き出しやすいように、横向きになってもらいましょう。

 歯みがきをすると、お口のなかが唾液でいっぱいになってしまいます。これは「刺激唾液」とよばれるもので、正常な体の反応です。

 たとえば、食事の際にも唾液がいっぱい出ますが、これは歯で何度も咀嚼して細かくした食物を唾液でまとめ、飲み込みやすくするためです。

 唾液が出にくくなると大変です。常に水分を摂らないと食物がお口のなかでばらばらになり、ビスケットを食べるときのように飲み込みにくくて苦しい思いをします。

 でも、歯みがき中に出る刺激唾液は、うっかりすると、のどの奥に流れていってしまい、むせる原因となります。高齢者は水分を摂るときに注意しないといけません。反射が遅くなっている高齢者の場合、気管に流れ込んでしまう「誤嚥」が生じやすいからです。

 対策としては、お口のなかにたまった唾液を早めに吐き出すことです。乗り物の中などで、突然むせて苦しんでいる高齢者がいますが、これは唾液にむせているのです。

 また、歯みがき剤をつけすぎると、刺激で唾液が必要以上に出ます。最初は歯みがき剤をつけずに、最後の仕上げみがきに使うとよいでしょう。

 介助してみがく場合は、唾液がいっぱいたまらないように吐き出させてり、頭部を横向きにして自然に唾液が排出される姿勢をとってもらいます。

 寝たきりの場合は、起き上がるのではなく、横向きになってもらいます。そのほうが、お口のなかものぞきやすいのです。よく見えないときれいにすることはできません。

ホワイトニングの効果と手入れは?

Question ホワイトニングの効果はどれくらい続きますか?また、どんな手入れをしていけばよいですか?

Answer 個人差がありますが、効果は数ヶ月から1年です。

 歯科医院でオフィスホワイトニングを行った結果、ついに白さを獲得できました。では、この効果はどれくらい続くのでしょうか。個人差がありますが、数ヶ月から1年位が目安となります。

 「せっかく歯が白くなったのだから、できたらこの状態を長く保ちたい」と考えるのは当然です。

 しかし、人は食事を含めて毎日の生活を営んでいるわけですから、時間の経過とともに、白くなった歯が汚れたり、くすんだり、再着色をしたりして、徐々に後戻りをする傾向がでてきます。

したがって、この現象はネガティブではなく、当たり前のこととして受け止める必要があります。

また、後戻りですが、100%戻ることはありません。30~70%の戻りですので、白くよみがえらせることは比較的容易です。

 ホワイトニングを行った患者さんに定期的なメインテナンスをすすめています。多少の後戻りなら、1~2回で簡単に復元できるからです。

 このときに、追加漂白を行うことがありますが、場合によってはクリーニングだけでも白さを取り戻せます。

 手入れは、やはり毎日の確実な歯みがきにつきますが、歯を白くする歯みがき剤の使用もおすすめできます。

子供の歯並びをよくするにはどんなことに気をつけたらよいか?

Question 子供のかみ合わせや歯並びをよくするには、小さいころからどんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Answer よくかむこと、むし歯にしないこと、悪習癖を止めることが重要です。
不正咬合の原因には先天性原因と後天性原因があります。遺伝などの先天性原因の不正咬合を防ぐのは難しいですが、後天性原因は日常生活に注意すればある程度予防できます。
① よくかむこと
乳歯は2歳半くらいに完成し、6歳臼歯が生えるころまでが一番成長する時期ですので、この時期によくかむことが重要です。乳歯間に隙間ができて、永久歯の場所が確保されます。
「一口ごとに30回以上かんで」などといわれますが、私は一口でいつもより3~5回分余分にかむことから始めてもらいます。そして毎食一品はかみごたえのある食材(ごぼう、レンコンなど何でも)を食べてもらうよう指導しています。
②むし歯にしないこと
乳歯をむし歯にして抜いてしまうと、永久歯のための隙間は減少してしまいます。乳歯間に十分な隙間が確保されれば、ガタガタの歯ならびは防げるはずです。むし歯になったらすぐに治してもらいましょう。
③悪習慣をやめること
指しゃぶり、異常嚥下癖、舌前突癖などは、よい歯ならびの妨げになります。また、ほおづえや寝る姿勢(うつぶせ寝や同じ向きで寝る)も顔面非対称の原因となります。口呼吸も歯ならびの大敵です。鼻炎や扁桃肥大などで、鼻呼吸ができない場合もありますので注意が必要です。
お子さまの歯みがきをときどきチェックするとともに、かみ合わせも常に注意してみましょう。受け口や出っ歯などはわかりやすい不正咬合です。乳歯がいつまでも残っていたり、かみ合わせが気になっている場合は矯正医に早めに相談してみましょう。

インプラント治療はどんな歯医者さんに行けばよい?

Question インプラント治療を受けたいのですが、どんな歯医者さんに行けばよいのでしょう。
Answer 信頼関係の得られる歯医者さんをおすすめします。
現在、日本には6万軒以上の歯科医院が存在します。治療を受けるには、その中の1軒を選んで受診することとなります。
理想では、技術はもちろんのこと、インプラント治療に造詣が深く、経験豊富、関連する学会や講習会に積極的に参加し、研究・臨床報告などを頻繁に行っている先生。
また、常に知識と技術の向上をはかり、多種多様な治療方法に精通しておられ、患者さんの気持ちのわかる先生が良いのですが、なかなかそのような理想的な先生にめぐり合うことは難しいでしょう。
そこで、インプラント治療を受けるにあたって目安となるポイントをご紹介します。
① 専門的事項を、やさしい言葉でわかりやすく説明してくれる。
② メリットはもちろん、デメリットについてもしっかりと教えてくれる。
③ 外科処置を必要とするわけですから、相応の設備の整った診療室で、常に清潔。
④ 同じようなインプラント治療を受けた方の評判。とくにメンテナンスの充実度。
しかし、もっとも重要なのは、現在の状態と病気の原因、さまざまな治療方法につい説明を受け、歯科医と患者さんが共同の治療目的を設定し、同意のもとで治療を受けることです。
そして、お口のなかの健康を長持ちさせることを第一に考えたうえで、長くお付き合いのできる良い歯医者さんを選んでください。

入れ歯を入れなくても、大丈夫なのでしょうか?

Question おじいちゃんは、入れ歯を入れずに歯ぐきで食事ができています。このままでも大丈夫なのでしょうか?
Answer 大丈夫ですが、健康のためには入れ歯を入れたほうがいいでしょう。
入れ歯の目的は、歯を入れるのと同時に、複雑で精妙な咀嚼機能(モノをかみ砕くこと)や嚥下機能(物をのみこむこと)を回復し、息の漏れを防止して明瞭な発音機能を改善することにあります。さらに口もとがより若々しくなることで肉体的、精神的そして社会的にも活動的になることを手助けするものです。
食物摂取と消化吸収は、人が生きるためのエネルギー獲得にきわめて重要です。咀嚼は、胃腸における消化・吸収にも大きく影響することになります。
逆に、咀嚼をしないで食物を丸呑みこみすると、胃腸に負担がかかり、消化不良にもなります。また、咀嚼運動としての口の開け閉め運動を活発に行うことで脳の血流量が増えるという報告もあり、脳の老化防止にも良い影響も見られます。
ご質問の方のおじいちゃんの入れ歯は部分入れ歯でしょうか?総入れ歯でしょうか?
部分入れ歯で、喪失した歯が少数であれば、あえて入れ歯を使用しなくてもよい場合もあります。多数の歯を喪失していたり、総入れ歯の場合には、基本的に入れ歯の不都合を調整して、先に挙げた多くの機能の回復が優先されなければなりません。
しかし、決して健康的とはいえませんが、食事にあまり苦労せず、会話にもさして問題なければ、人さまざまな考え方と理解してもよいのでしょうか。
数年前、超長寿の双子のきんさん・ぎんさんは、入れ歯を入れてなくてもあれだけ健康的に活動しておりました。テレビで見る限り、食事もよくいただいていたようです。ただ、周りの方たちによる食事の用意は大変だったと思いますが・・・。

歯石がたまっている

Question 歯石がたまっているのですが、どうしたらよいのですか?
Answer 歯科医師や歯科衛生士に歯石を除去してもらいましょう。
むし歯や歯周病の原因のプラーク(歯垢)は、放置しておくと、唾液や血液の成分を吸って徐々に硬くなっていきます。それが歯石とよばれるものです。
その表面はざらざらしているために、さらにプラークが付きやすくなり、石になる際に歯周病の病原菌を封じ込めているため、プラークと同じく歯周病の原因となります。よって、歯から完全に除去する必要があります。
その方法は、主に二通りあります。
ひとつは、スケーラーまたはキュレットとよばれる手用の器具を使い、先に付いた刃を利用して、歯の表面から歯石をがりがりと削り取る方法です。これはとくに歯ぐきにもぐり込んでいる深い部分の細かい歯石を取る際に便利です。
もうひとつは超音波スケーラーという器械を使って、器械の先端部分の超音波振動を利用して、歯石を破壊してしまう方法です。これは歯ぐきの上の部分の多量の歯石を取り除く場合に役立ちます。また歯ぐきの下の頑固な歯石を取る際に使うこともあります。
歯周病が治りにくいのは、この歯石が歯の根の表面のいろいろなところに潜んでいるからです。歯科医師や歯科衛生士はこれらの歯石を見つけ出し、排除するエキスパートです。
1回で取り切れない場合は、同じ場所を何回も行うことがあります。
それでは、歯石を付けない一番の予防法は?そうです、歯石の前身であるプラークを、歯みがきによってきれいに取り除くことです。

歯との付き合い方 老年期編

-人生の総決算、8020を目指して-

「8020運動」をご存じですか?
厚生労働省では「8020運動」というキャンペーンを展開し、“80歳になっても20本自分の歯を残しましょう”と呼びかけています。
つまり、赤ちゃんからお年寄りまで、生涯を通じて口の中の健康を保ち、これを増進させようと、提唱しているのです。
これまで、年代別に注意することがらについてお話してきました。丈夫な歯と歯周組織を保ったまま年をとることができたらどんなに喜ばしいことでしょう。しかし、それはなぜでしょうか。
まず、おいしいものをどんどん食べることができます。健康な歯でしっかりと噛み、唾液の中に含まれている成分と食べたものを混ぜ合わせて、胃腸へと送り込むことができるのです。こうすると、消化器官への負担が減り、栄養の吸収も高まります。つまり、全身の健康に関わってきます。

-噛むことと唾液の効果-

唾液には、食べ物を消化する働き、酸やアルカリを加えても水素イオンの濃度の変化を最小限に食い止める働き、細菌の増加をさまたげる働きなど、重要な生理機能があり、消化器官である胃や腸への負担を軽くしていくのです。
こうして、歯が食べ物を細かくして、しかも唾液とよく混ぜ合わすことで、消化管の調子も悪くなるはずがありません。そのうえ、唾液の中にはEGFという物質が微量ながら含まれており、これがじつは消化管の傷を治すのに重要な役割を果たすといわれています。
よく噛むことは、こうした唾液のさまざまな生理機能を十分に発揮させ、活かすことにつながるのです。

-おいしく食べて、元気で長生き-

歯があれば、私たちはおいしい食事を楽しむことができます。「食べる」ということは、生き物の生存にとって必要欠くべからず要素であり、基本中の基本です。
そして、「食べる」ことは人間にとってたいへん楽しいことであり、食事を楽しむことができれば、大変豊かな生活(クオリティ・オブ・ライフ)を送ることができます。
不幸にして、歯が抜けてしまったり、抜いてしまったりした場合は、入れ歯でその機能を補うことになるわけですが、若いころからの努力の積み重ねで、自分の歯を残していくに越したことはありません。
最近では、噛むことが、脳にいく循環血量を増やすということがわかってきました。
たとえば、眠気覚ましには、コーヒーや紅茶によるカフェインの摂取と、チューインガムを噛むこととを比較した場合、チューインガムのほうが効果的だったということです。
噛むことによって、脳へ多くの血液が流れることになるというのならば、当然、ボケ防止にも効果があるのです。
よく噛めるお年寄りは、脳が活性化されますから、ボケることも少なくなります。噛むということが、たいへん重要になってくることがおわかりでしょう。
いかがですか。
つまり、たとえ一本の歯であっても、それをしっかり守っていれば、おいしい食事ができるだけでなく、からだ全体や脳の健康のためにもたいへん役に立つのです。
日本は長寿国、せっかく長生きするのなら、おいしく食べて、食べる楽しみとともに生活を楽しみましょう。
ひどく悪くなってから歯を大事にしても、なかなか結果がついてきません。
ぜひ日ごろからの歯のケアを習慣にして、自分の歯と長く付き合っていきましょう。

マウスガードの使用感

マウスガード(マウスピースと呼ばれるときもあります)は通常、コンタクトスポーツを行うときに歯を外傷から守るために使用することがおおいです。
ボクシングの中継のときにゴングがなる前にセコンドの人が口に入れる光景をよく目にすると思います。
冬場になるとラグビーの季節で、選手がアップになると口の中にさまざまな色のマウスガードを装着しているのも見ることがあると思います。
それらのスポーツは激しく殴りあったり、ぶつかり合うために、マウスガード(マウスピース)の装着が義務化されています。
怪我は皆さん避けたいところですし、特に前歯が折れてしまったりすると、見た目が非常に気になってしまうと思います。
そのためアマチュアスポーツでも使用頻度が増えてきており、いままでにさまざまなスポーツ選手にマウスガードを作って装着してきました。
実際に使用した選手に使用感を聞くようにしていますが、大体皆さん問題はないようです。
スポーツ中は必ず声を出す必要性がありますが、その発声が他の人にもしっかりと聞き取れることも確認します。マウスガードを入れたがために何をしゃべっているのか分からない状態になってしまっては、チームスポーツとしては大きなハンデになります。
食いしばった時のあごの安定感も確認します。
マウスガードは弾力性のある素材で作成するため、くいしばったときに沈み込んでかみ合わせの安定感が出ます。
この食いしばった時の安定感を好む選手が結構います。
その安定感が頸部から頭部をしっかりと安定させて、脳震盪(のうしんとう)の予防にも効果があるといわれています。
歯科医院では歯型を取ってその歯形にぴったりと合うマウスガードを作成するために装着感と適合性や機能性は、とても良いとの評価を受けます。まさにオーダーメイドで作り、世界中でもその人にしか合わないたった一つのマウスガードが出来上がるからです。

歯との付き合い方 青年期以降編

-むし歯より歯周病が大問題!-

むし歯は、生えはじめてから年数のたっていない歯ほどかかりやすく、そして、唾液の中に含まれている成分が歯の表面をだんだん硬く、強くしていきます。ですから、むし歯に対しては、青年期以降は抵抗力をもつようになります。
しかし、それとは裏腹に、そのころになると歯ぐきのほうに問題が生じてきます。
つまり、歯周病が少しずつ出てくるようになるのです。
━成人の75%が歯周病!━
歯周病はむし歯と並ぶ歯科の二大疾患です。日本人で、成人の75パーセント以上のヒトが歯周病で、さらには35歳以上で歯周病のない健康な歯肉(歯ぐき)をもつ人は、100人に1人もいないといわれています。
歯周病は、人類の歴史のなかでも古くからある病気で、古代遺跡から発掘された頭蓋骨からは、歯周病にかかっていただろうと思われる痕跡が発見されています。紀元前1300年にはもう、歯周病予防のために歯をきれいにする試みがあったという記録が残っています。

-歯肉炎と歯周炎-

歯周病には、歯肉炎と歯周炎があります。簡単にいうと、炎症が歯肉部にのみ見られるものを歯肉炎といい、炎症が歯肉よりもさらに深く影響して、歯根膜や歯槽骨が破壊されている場合を歯周炎といいます。
このような歯周病の約9割は「成人性歯周病」と呼ばれるもので、幼児に発生することは、たいへんめずらしく、しかし、青年期以降の人にはきわめて多くなります。歯周病がどのように起こるのかを、戦争にたとえて次回に説明してみましょう。

-歯周病を戦争にたとえてみると-

敵は、もちろんプラーク内に住んでいる歯周病の病原菌です。からだを守る味方の防衛軍として、いろいろな細胞や物質が働いています。
敵にいちばん近い前線は、歯肉の上皮部、とくに歯と接している部分です。ここでは、好中球という白血球の一種がパトロールしています。好中球は非常に速いスピードで現場に到着し、「貪食能」(食べて殺してしまう)という武器によって敵をやっつけることができるのです。
しかし、このパトロール隊には、軍隊の本部(免疫システム)と無線連絡する装置がありません。
前線をパトロールしているもうひとつの細胞は、大食細胞(マクロファージ)です。このパトロールカーはそれほどスピードは出ませんが、本部と無線連絡を取ることができます。また、この大食細胞は、好中球と同じように、細菌を食べる貪食能によって、敵をやっつけることができます。
敵の数が多くて、手に負えなくなると、車についている無線を使って、本部へ敵の襲来を知らせます(これを抗原提示といい、免疫反応がスタートします)。
連絡を受けた本部は、急遽、軍隊や武器を前線に送り込むことになります。この際、大量の物資を短期間のうちに現場に送り込まなければなりません。そうすると、従来の細い道路(血管)では、十分に武器や軍隊を送ることができないため、どうしても広くて立派な軍用道路が必要になります。広い軍用道路ができることは、からだにとっては血管が広がる現象(充血)に相当します。炎症が起こると赤くなり熱っぽくなるのはこのためです。
林を切り開いたり、山を削って道路を急いでつくるのですから、道路のまわりには工事用の物資が雑然と置かれることになります。これは、からだにとっては、血管の中から液状成分がしみだした「浮腫」という現象にあたります。
また、こうした工事用物資(液状成分)は不要となって道路(血管)の外に出るのではありません。液状成分のなかには生体にとって重要な物質が含まれており、細菌の毒素を薄めたり、細菌がからだの中に入らないようにする大切な働きをしています。
いずれにしても、炎症があるとその場所が腫れあがるのは、この浮腫が原因なのです。
本部(免疫システム)から前線(歯周組織)までの軍用道路(血管が広がった状態)ができ上がると、軍隊が派遣されます。
まず、好中球が猛スピード前線に向かい、その後を大食細胞が追って軍用道路に走っていきます。さらにその後を戦車に乗った主力戦闘部隊は、B細胞と呼ばれるリンパ球で、この中には特殊工作部隊(形質細胞)も含まれていて、ともに、抗体という武器で敵をやっつけます。
B細胞も形質細胞も、大量の武器(抗体)をつくり、これで敵(細胞)と戦います。
戦闘部隊の指揮官は、T細胞と呼ばれるリンパ球です。戦闘状態に入ると、民間の地下組織、つまり民兵(補体)も加わって、敵と戦います。

-歯槽骨と歯肉の破壊-

戦争が長引くと、軍の指揮官であるT細胞が命令をして、付近の民家や畑をこわし、平地にして戦車を並べます。T細胞や大食細胞から放出された物質が、民家や畑にあたる歯槽骨や歯肉結合織を破壊するのです。
このように、生体を守るために自然の環境(健康な歯周組織)を破壊して、戦闘状態に入ったのが歯周病(歯周炎)なのです。
歯周病になると歯ぐきから血が出ます。これは、軍用道路ができて充血状態になり、軽い傷でも簡単に出血してしまうからです。
また、歯ぐきが腫れあがるのは、軍用道路を急いでつくったために道路の周辺に工事用物資が放置されて、浮腫という状態になるからです。
歯の周りからウミが出るのは、パトロールカーに乗って戦った好中球の死骸がたくさんたまっているからです。
歯がグラグラするのは、戦闘状態に入って歯槽骨や歯肉結合織が壊されることによって起こります。
歯ぐきが退縮するのは、敵の攻撃を受けて、住民の周囲を破壊しながら前線が後退しているからです。
戦いの末に、歯が抜け落ちると、歯の周りに付着していた敵(歯周病原菌)がいなくなりますから、腫れや痛みといった炎症症状はおさまります。
歯周病の発生のしくみがおわかりになったでしょうか?
敵はプラークの中に潜んで、着々と戦力を強化し続け、攻撃してくるのです。おそろしいことです。これを防ぐためにも、いつもていねいにブラッシングをして、プラークを取り除いておきましょう。

-歯周病の進行には個人差がある-

むし歯と歯周病という歯科の二大病の中でも、青年期以降にクローズアップされるのが歯周病だということをおわかりいただけたかと思います。
しかし、実のところ、細菌部隊の規模や強さには人によって違いがあり、また、からだを守る防衛軍の戦闘能力にも個人によって差があるのです。
病気の原因は、「外界から作用するもの(外因)と、生体側に関係するもの(内因)があり、両者が複雑に作用しあって発病する」と考えられています。
つまり、外因と内因とのバランスの問題で、生体はヤジロベエのようにうまくバランスを保ち健康な状態を守っているのですが、このバランスが崩れたときに病気が発症することになるのです。

-からだの抵抗力が弱いと・・・-

歯周疾患では、プラーク内にある細菌が外因として、生体の抵抗力が内因として作用します。
したがって、生体の抵抗力が同じであっても、細菌の量が増えればバランスは崩れます。
その一方で、細菌の量が同じでも、からだの抵抗力が低下すると、やはり外因と内因のバランスが崩れて歯周病が発生する(またはなかなか治らない)ということになります。
ある患者さんは、プラークをいっぱい歯にくっつけているのに、歯肉にはほとんど炎症が見られない。また、ほかの患者さんは、よくブラッシングしているのに、炎症症状がなかなか改善しない、ということがしばしば起こります。
前者は、プラーク内の細菌も多いけれど、からだの抵抗力も強いため、歯周病が起きていないと考えられます。
また、後者は、プラークは少ないけれども、からだの抵抗力が弱っているために歯周炎が起き、改善しにくいと考えられるのです。

-歯がグラグラする前に何ができるか?-

外因となる歯周病の細菌については、近年のすぐれた研究によってだんだんと詳しいことが明らかにされてきました。その結果、歯周疾患にかかわるさまざまな細菌検査が歯科の臨床に取り入れられつつあります。
プラーク内の細菌の種類を調べたり、炎症の時期(現在安定しているか、それとも急激に悪化しそうか)などの予測ができるようになってきました。
歯周治療にあたっては、スケーリング(歯の周りについたプラークや歯石を取り除く方法)、ルートプレーニング(歯根についたプラークや汚れを取り除く方法)があります。専門的なプラークコントロールは、歯科医院で受けることができます。プラークコントロールが、歯周病予防や治療においては大変重要です。
比較的軽度の歯周病の治療は、プラークや歯石を取り除いて清潔に保ちます。
また、不適合な入れ歯や冠は調節し、グラグラし始めている歯なら、固定して安静を保ちます。
けれどももっとも大切なことは、正しくていねいなブラッシングです。歯科医師や歯科衛生士からあなたに合ったブラッシングの方法を指導してもらい、また、適切な歯ブラシ・デンタルフロスや歯間ブラシの使用方法を知る必要もあります。
ひどくなる前に、歯科医院で行うプラークコントロールはたいへん効果的です。
歯周ポケットが深くなり、歯槽骨の吸収がひどくなった、程度の進んだ歯周病の場合は、手術で歯の根の部分の汚れや、炎症を起こした部分を取り除くことなどが必要になります。

-全身の健康と歯周病-

まだ、からだの抵抗については、ストレス・ホルモン・全身疾患などと関連があるといわれています。糖尿病などの全身的な病気のある場合には、その治療を徹底的に行うことがいうまでもなく必要です。
全身的な病気との直接的な関係が、近年少しずつ明らかにされてきています。これらの病気があると、かなり重い歯周病の症状を示すことが多いようです。
どうですか?
老後を自分の歯で過ごし、QOLの高い生活を送るには、日ごろからのケアが必要なことがおわかりになったかと思います。