歯周病学会推奨の子供から大人までの歯周病対策法

 日本全国の歯周病専門医を中心に構成されている日本歯周病学会から、子供から大人までを対象にしたライフステージ別の歯周病対策の最新のまとめの研究論文が出ましたので、一般の方にも内容を抜粋し分かりやすく書き直してみました。

 この研究論文は生涯を通じて虫歯や歯周病の予防をして健全な生活が営めるようにと、2011年8月に施行された「歯科口腔保健の推進に関する法律」を受けて作成されたようです。

1.14歳以下の歯周病対策

 この時期に歯周病になることは少数ですが、成人になってから歯周病のなりやすさへの影響が出ます。ブラッシング(歯ブラシ)を中心としたセルフケア(自宅で行う歯のお手入れ)できちんと歯の汚れが取れるようになれば、約10年後には歯周病になりにくくなります。歯周病の進行にともなって深くなる歯周ポケット(歯と歯肉の隙間)ができにくいということです。裏を返せば、この時期にきちんとしたセルフケアができていないと歯周病になりやすいということになります。
 また食事のとりかたや栄養についての正しい知識を身につけ、望ましい食習慣を身につけていくことが必要です。そして歯や歯肉のチェックのために歯科医院を受診して、虫歯・歯周病・歯肉の腫れなどの予防を行うことが大切です。定期受診ごとにセルフケアの方法をチェックしてもらえば、セルフケアがどんどん上手になり、その結果歯周病になりにくくなっていきます。

2.15~29歳の歯周病対策

 厚生労働省が6年に一度、全国規模で「お口に関する調査を行う歯科疾患実態調査」というものがあります。その最新版である平成23年の結果を見ると歯肉になんらかの異常のある人の割合は15~19歳で69%、20~24歳では74%となっています。ここで言う「なんらかの異常」とは自覚症状がまったくないものがほとんどで、健診などで歯科医師によってチェックされたものをさします。若い世代でも約4人中3人に歯肉に「なんらかの異常がある」ということです。
 また別の研究論文では、この若い時期に歯肉に異常がない人は50歳のときに99.5%自分の歯が残っていたのに対し、若い時期に歯肉に異常があった人は63%しか歯が残っていなかったそうです。つまり若い時期の歯肉の状態が、将来の自分の歯の寿命を左右している要因のひとつと言えます。
 そのため若いときから歯周病ケアを始めておいた方が有利になります。ケアの方法としては毎日自分で行うセルフケアと、定期的に歯科医院を受診して行うプロフェッショナルケアとがあります。セルフケアは歯ブラシで行うことは皆さんご存知だと思いますが、デンタルフロス(糸ようじ)も同時に使用した方が効果的です。歯ブラシだけでセルフケアをするよりも、歯ブラシとデンタルフロスを併用した方が歯肉の異常の回復には有効だという研究結果があります。デンタルフロスの使用方法が分からない場合は歯科医院で教えてもらえます。

3.妊娠期の歯周病対策

 妊娠時には女性ホルモンの増加にともなって、歯肉になんらかの異常が出やすくなります。更につわりがあると歯ブラシも使えなくなり、更に歯肉の状態が悪化します。そのためセルフケアだけでは十分に歯肉の異常を治すことができないときは、歯科医院でプロフェッショナルケアを受けたり、セルフケアのアドバイスを受けたりするといいです。
 歯周病があると早産・低体重児出産になりやすいという研究結果と、歯周病と早産・低体重児出産の関係はないという研究結果があり、これらの因果関係はまだはっきりしたことが分かっていないため、今後のさらなる研究結果を待っているところです。
 なお、今回の歯周病対策とは別になりますが妊婦さんでも母子ともに健康であれば、歯科治療のほとんどは可能な場合が多いです。妊娠をしていても積極的に歯科医院を受診して、産婦人科医と歯科医に相談をしながらお口の治療やケアを受けましょう!

4.30~49歳の歯周病対策

 15~29歳のところでも出てきた平成23年歯科疾患実態調査では、この世代(30~49歳)の80~90%の方に歯肉になんらかの異常があるとの結果が出ました。20歳のころに比べて更に異常のある人の割合が増えており、10人中9人の歯肉に異常があるということなので、歯肉に異常がない人の方が珍しい状態です。年齢を重ねるにつれて増加の一途をたどっている理由は、歯周病は自覚症状が出ないまま進行する病気だからです。
 さらに20~30%の方が軽症ではなく重症な歯周病へ進行しているとの結果です。歯周病は重症でもまったく自覚症状が出ない場合もあるため、重症化しやすいのです。そのためこの世代の歯周病予防は、歯周病の発症予防と歯周病の進行阻止の2段階での対策が必要になってきます。今までの世代同様にセルフケアを充実していかなければなりませんが、歯ブラシとデンタルフロスのほかに歯間ブラシが有効な方も出てきますので、定期的なプロフェッショナルケアを受けた時にチェックしてもらうといいです。
 この世代では全身疾患(内科的な病気)や喫煙が歯周病のリスク(歯周病を更に悪化させる要因)になることも、本人は知っておかなければなりません。つまり全身疾患や喫煙があると歯周病は進行しやすいということです。

5.50歳以上の歯周病対策

 30~49歳では歯周病になっている人が30%だったものが、歳をとるごとにその割合はどんどん増加していきます。そして65~69歳では歯肉の異常ではなく、完全に歯周病になってしまった人の割合が83.2%と、この世代では歯周病にかかっていない人を探すのが難しい状態になっています。歯周病になっているということは、すでに歯を支えている周囲の骨が溶けている人が83.2%もいるということです。
 しかし、70~74歳では歯周病になってしまった人の割合は10%も少なくなっています。その分、全部歯が無くなってしまった人(総入歯の人)の割合が10%も増えています。つまり、歯が無くなると歯周病も無くなります。歯周病の最後は歯が全部無くなって、そして歯周病も無くなるということです。
 この世代ももちろんセルフケアは重要ですが、歯が無くなってきたり治療をしてブリッジや入れ歯が入っていたりすると歯ブラシが難しくなるため電動歯ブラシを使用してみるのもひとつの方法です(電動歯ブラシはこの世代専用ではなく全世代で使用できます)。使用するときは定期的に行っているプロフェッショナルケアのときに相談をしてみましょう。
 この世代に見られる病気に誤嚥性肺炎があります。これは口の中のばい菌が原因で肺炎を起こしてしまう病
気で、死にいたる場合もあります。歯周病ケアをして歯周病が安定している人より、歯周病が安定していない人のほうが誤嚥性肺炎の発症率が明らかに高かったという研究データがあります。つまり、口の中の歯周病菌がたくさんいると、それが原因で誤嚥性肺炎になってしまうことが考えられるということです。

 

 ライフステージ別の歯周病対策を見ると、若い世代から対策をしておけば、年齢を重ねても歯周病のリスクを下げることができます。また、どの世代であってもケアを怠ってしまうと歯周病が進行してしまい、最後は歯が無くなってしまったり、死の危険さえ出てきます。
 自覚症状がほとんど出ない歯周病は、自分で知ることができませんから、歯科医院でしっかりと検査を行い歯周病の有無のチェック、また歯周病があった場合はその重症度はどの程度のものなのか、そしてそれらの治療についてどのようなことをしていけばいいのかを明確にして実行しておかなければなりません。
歯周病の脅威から逃れるために、セルフケアとプロフェッショナルケアをしっかりと行っていくかかりつけ歯科医を持つことが大切になります。