Question 子供のかみ合わせや歯並びをよくするには、小さいころからどんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Answer よくかむこと、むし歯にしないこと、悪習癖を止めることが重要です。
不正咬合の原因には先天性原因と後天性原因があります。遺伝などの先天性原因の不正咬合を防ぐのは難しいですが、後天性原因は日常生活に注意すればある程度予防できます。
① よくかむこと
乳歯は2歳半くらいに完成し、6歳臼歯が生えるころまでが一番成長する時期ですので、この時期によくかむことが重要です。乳歯間に隙間ができて、永久歯の場所が確保されます。
「一口ごとに30回以上かんで」などといわれますが、私は一口でいつもより3~5回分余分にかむことから始めてもらいます。そして毎食一品はかみごたえのある食材(ごぼう、レンコンなど何でも)を食べてもらうよう指導しています。
②むし歯にしないこと
乳歯をむし歯にして抜いてしまうと、永久歯のための隙間は減少してしまいます。乳歯間に十分な隙間が確保されれば、ガタガタの歯ならびは防げるはずです。むし歯になったらすぐに治してもらいましょう。
③悪習慣をやめること
指しゃぶり、異常嚥下癖、舌前突癖などは、よい歯ならびの妨げになります。また、ほおづえや寝る姿勢(うつぶせ寝や同じ向きで寝る)も顔面非対称の原因となります。口呼吸も歯ならびの大敵です。鼻炎や扁桃肥大などで、鼻呼吸ができない場合もありますので注意が必要です。
お子さまの歯みがきをときどきチェックするとともに、かみ合わせも常に注意してみましょう。受け口や出っ歯などはわかりやすい不正咬合です。乳歯がいつまでも残っていたり、かみ合わせが気になっている場合は矯正医に早めに相談してみましょう。
カテゴリー: 咬み合せが気になる
マウスガードの使用感
マウスガード(マウスピースと呼ばれるときもあります)は通常、コンタクトスポーツを行うときに歯を外傷から守るために使用することがおおいです。
ボクシングの中継のときにゴングがなる前にセコンドの人が口に入れる光景をよく目にすると思います。
冬場になるとラグビーの季節で、選手がアップになると口の中にさまざまな色のマウスガードを装着しているのも見ることがあると思います。
それらのスポーツは激しく殴りあったり、ぶつかり合うために、マウスガード(マウスピース)の装着が義務化されています。
怪我は皆さん避けたいところですし、特に前歯が折れてしまったりすると、見た目が非常に気になってしまうと思います。
そのためアマチュアスポーツでも使用頻度が増えてきており、いままでにさまざまなスポーツ選手にマウスガードを作って装着してきました。
実際に使用した選手に使用感を聞くようにしていますが、大体皆さん問題はないようです。
スポーツ中は必ず声を出す必要性がありますが、その発声が他の人にもしっかりと聞き取れることも確認します。マウスガードを入れたがために何をしゃべっているのか分からない状態になってしまっては、チームスポーツとしては大きなハンデになります。
食いしばった時のあごの安定感も確認します。
マウスガードは弾力性のある素材で作成するため、くいしばったときに沈み込んでかみ合わせの安定感が出ます。
この食いしばった時の安定感を好む選手が結構います。
その安定感が頸部から頭部をしっかりと安定させて、脳震盪(のうしんとう)の予防にも効果があるといわれています。
歯科医院では歯型を取ってその歯形にぴったりと合うマウスガードを作成するために装着感と適合性や機能性は、とても良いとの評価を受けます。まさにオーダーメイドで作り、世界中でもその人にしか合わないたった一つのマウスガードが出来上がるからです。
歯との付き合い方 思春期編
-思春期のむし歯に注意!-
日本では、むし歯を持っている人の割合が、八歳ですでに五〇パーセントを超え、一二歳では九十パーセントを超えるといわれています。なぜこんなに若いあいだに爆発的にむし歯が増加してしまうのでしょうか。
むし歯ができるには、四つの因子が原因となるといいます。それは、細菌(むし歯菌)・食べ物(糖)・時間・歯(むし歯になりやすさ)です。
永久歯になっても、やはりむし歯になりやすい状態が続きます。十二歳ごろ二〇歳ころにかけては、とくにむし歯になりやすいといわれています。このような時期の若いむし歯は進行が速く、できはじめて一年あまりで、相当深くまで進んでしまいます。
これはなぜかというと、永久歯が生えてきて、ものを噛んだり、あるいはしゃべっているあいだに、口の中の唾液が歯の表面にくっつくわけですが、この唾液の中には歯を硬くする成分が含まれており、歯(エナメル質)をさらに強くしていきます。そのために、年をとった人の歯は、むし歯に対して抵抗力が強くなるのです。
永久歯の場合でも、生えはじめてまもない歯の場合は、むし歯に対する十分な抵抗力をもっていませんから、むし歯にかかりやすいわけです。
-親知らずが生えてくる-
親知らずは一七、一八歳ころからはえはじめます。この親知らずは、必ずしもまっすぐに生えてくるとは限りません。親知らずが生える場所が狭ければ、横のほうに、あるいは斜めに生えてきてしまいます。
親知らずが生えてきたら、小さな歯ブラシを使って毛先届くようにして、鏡を見ながらよく磨くようにしましょう。いちばん奥にある歯なので、自分では磨いているつもりでも、歯ブラシが届いていない場合が少なくありません。そのために、親知らずはむし歯になる確率が高いのです。
生え方が正常で、歯ブラシが届くような親知らずであれば、必ずしも抜く必要はありません。
親知らずが顔を出すころに、歯の周りの歯肉に炎症が起こってきます。たとえば赤く腫れて痛みが出ることがあります。歯医者さんに行って、薬をつけてもらったり、症状によっては抗生物質を処方してもらってください。
そして、親知らずが、横に生えてしまったり、骨の中にもぐってしまった場合には、最終的には抜いたほうがよいでしょう。
-あごの骨と歯並びが完成-
乳歯が抜け変わりはじめてから、永久歯による噛み合わせが完成するまで、じつに十数年にわたって歯は生え変わり続けます。ヒトのあごの骨は男子では十六歳ころ、女子では十四歳ころまでに成長・発育が活発に続けられるのです。永久歯が生えそろうまでのこの長いあいだには、外から歯や歯列にいろいろな刺激が加わり、さらに遺伝的背景や先天的な因子も歯並びのよしあしに関わってきます。
十五歳で永久歯の歯列がほぼ完成し、さらに十八歳ころになると第三大臼歯が生えはじめるので、これらの歯の生え具合から歯並び全体のチェックを行い、必要な場合は矯正治療を受けることになります。ただ、前にも書きましたが、ちょうど年ごろですので、もう少し幼いころに対応するという考え方もあります。
歯との付き合い方 小児期編
-乳歯が生えそろった!-
乳歯が生えそろうころには、子供は不十分ながら少しずつ一人で歯を磨けるようになってくるでしょう。しかし、磨いていることと「磨けていること」は違いますから、家族がチェックしてあげる必要があります。
まだこのころは、仕上げ磨きをしてあげるとよいのです。とくに奥歯の溝や隣り合った歯の間、歯と歯ぐきの境目のあたりに磨き残しがないかどうか調べながら磨いてあげてください。なぜ歯を磨かなければならないのか、歯の大切さを離してあげてください。
-永久歯が生えてくる!-
永久歯で最初に生えてくるのは、第一大臼歯です。これは、六歳前後に生えてきますが、一生使う歯ですから、むし歯にならないように一生懸命磨くようにしてください。
永久歯があごの中からどんどん顔を出してくると、乳歯はグラグラしてきます。乳歯がグラグラしてきたら、自然に抜けるまでそのままにしておいてかまいません。
しかし、グラグラしているために食事やおやつを食べるときに痛がるようなら、歯医者さんに乳歯を抜いてもらいましょう。
また、乳歯がグラグラしながらも抜けず、永久歯が脇のほうから顔を出してくるような場合も、歯医者さんに診てもらったほうがよいでしょう。
-むし歯になりやすい時期、要注意!-
その後、乳歯は少しずつ永久歯に生えかわり、第二大臼歯まで生えそろうのは十三歳ころになります。永久歯の数は親知らずを含めて三十二本ですが、親知らずは生えない人もいます。
生えたての永久歯は、むし歯になりやすいものです。できれば、歯医者さんでむし歯を予防する処置を施してもらうとよいでしょう。それは「フッ素の塗布」です。
これは、フッ素入りのむし歯予防ジェルを塗布してしばらく待ち、終わったらブクブクうがいをして完了という、簡単で効果の高い方法です。年に三~四回くらい塗布すると、ある程度むし歯を防ぐことができるのです。
このころの子供の歯は、一度むし歯になるとたいへん進行が速く、できはじめたと思ったらずいぶん深かったということもあるほどです。口の大きさに合った、小さな歯ブラシを選んで、日ごろからていねいな歯磨きをする習慣をつけさせましょう。
-歯並びのよしあしはいつごろから?-
年齢に見合った正しい歯並びの基準は、三の倍数の年齢がおおよその目安になるといわれています。
三歳では乳歯列の完成、六歳では上と下の第一大臼歯が生えそろっていることが目安。九歳では乳歯と永久歯の両方が混ざった混合歯列気のまっただなかで、いわゆる「みにくいアヒルの子」といわれる歯並びの時期です。十二歳で上と下の第二大臼歯が生え始め、十五歳で永久歯列がほぼ完成します。
生え変わりの時期は、歯列の良し悪しが決定するまでにはまだ時間がありますが、両親や兄弟の歯並びから、本人の歯並びも良くないだろうと予測される場合は、この頃から小児科医、矯正歯科医に相談してみるのも良いでしょう。
噛む力が弱いのですが、日常生活で鍛えることはできますか?
Questoin
噛む力が弱いのですが、日常生活で鍛えることはできますか?
Answer
咀嚼筋などを鍛える方法と、顔や頭を支えている頸や胸の筋肉を鍛える方法があります。
そのためには、食事のときに咀嚼回数を多くするように心がけることが一番大事です。また、食事の合間にチューインガムを噛むことで、咀嚼筋や頸の筋肉を鍛えることもできます。頸や胸の筋肉は、ダンベル体操などで刺激を与えてやるといいでしょう。
前歯の差し歯ができるまで
(栃木県日光市の歯科 沼尾デンタルクリニックで実際に行われた治療例です。これらの写真は患者さんご本人の承諾を得て公開させていただいております。もちろん個人を特定できるものは一切掲載しておりません。)
-前歯がとれた-
この方は、今まで入っていた歯がいきなり取れてしまいました。
これは自分の歯の根が残っているところに作った歯をさしてあったものが、根のところがまたむし歯になってしまい差し歯が取れてしまった方の写真です。
差し歯の状態でも、根の部分がむし歯が進行したり、根にヒビがはいって折れたりして抜かないとダメになってしまうことも珍しくありません。
差し歯にしてある場合、神経を取ってあるのでむし歯が進行してもまったく痛みを感じないことがほとんどです。差し歯にしたからといって安心していると、後でこのようにいきなり歯が取れるという思わぬアクシデントが起こります。
今回のこの方の場合は、むし歯は進行していましたが何とか抜かずに根が使えそうだったので、根の再治療を行ってもう一度差し歯を作っていくこととしました。
-とりあえず仮歯-
歯がないままだと、
・話しにくい
・食べにくい
・見た目が悪い
などと日常生活にとって非常に困ります。しかし、すぐに歯は作れないので「仮歯」というものを作ってそれをつけて、一時的に対応します。
これも歯の根があまりにもむし歯が進行してボロボロになってしまうと、仮歯も作れないこともあります。そのため痛くないからといって放置しておくと、歯が取れても仮歯も入れられないといった、大変なことになることも多いです。その場合は、仮歯ができる状態まで治療してからでないと仮歯も入りません。
この方の場合は、仮歯を入れた状態で根の中の治療を数回の通院で行いました。根の治療が終了した段階で、やっと最終的な歯を作る過程に入っていきます。
-まずは土台を作ります-
根の治療が終了してから、歯を作る過程に入っていきます。
まずは歯を入れるための土台つくりです。土台には主に金属とプラスチックの2種類があります。この材質の選択は歯の根の状態や、保険治療と自費治療などの条件によって選択されます。
今回この方の場合には、プラスチックの素材を選択しました。その理由はプラスチックの土台の特徴は歯の根よりもプラスチックの土台のほうが折れやすいからです。
ここで、どうして折れやすい材質を選択するのかという疑問があると思います。それは、歯は毎日いろいろなものを噛んだり(時々食べ物以外も噛むことはありませんか?)、転んだりしてぶつけたりすることもあります。そのように毎日のように衝撃が歯に加わっているのですが、衝撃が続けていることは歯にとって大きな負荷がかかります。そうするといずれ歯の根は折れてしまうのですが、歯の根が折れた場合はもう使い物にならなくなってしまうので抜歯することとなります。抜歯してしまうとそこにはもう歯の根が残っていないので、差し歯を作ることはできず、ブリッジや入れ歯で歯を作るようになってしまいます。
こういった事態を少しでも回避するため、衝撃が持続的にかかったときに、歯の根ではなく土台のほうが先に折れてくれれば、歯の根は抜かずにもう一度使っていくことが可能な場合が多いのです。土台が壊れてくれれば、もう一度土台から作り直して差し歯にすることが可能だからです。自分の歯を少しでも長く使ってもらい、入れ歯などになることを少しでも回避できるようにとの理由でプラスチックの土台を今回は選択しました。
オールセラミック(金属を使わず瀬戸物だけで歯を作る方法)で歯を作る場合にも、金属の土台よりプラスチックの土台のほうが綺麗に仕上げることができます。
-土台の型を取って歯を作ります-
できあがった土台を綺麗に形を整えて、いよいよ最終的な差し歯の型を取っていきます。
型を取ったものから石膏で模型をおこして、その模型上で差し歯を作成していきます。
今回は金属でベースを作ったところに、セラミック製の歯を盛り上げて作っていったものです。
歯の色はあらかじめ方をとったときに色見本で歯の色を確認しておきます。この色見本も微妙な色合いの歯が多数あるためじっくりと見ていくと悩んでしまい選べなくなってしまうので、患者さんにはパッと見たときの第一印象で決めてもらうようにしています。そのほうが、じっくり選んだときよりも仕上がりの色合いがよく合います。
-口腔内で歯を合わせていきます-
模型上で作成した差し歯を、口の中でぴったり合うように微調整していきます。
土台の状態から、
作成した歯を差し込んで、
微調整をしてぴったり合おうようにしていきます。
土台の部分にかぶさるようにして歯が入ります。そのためこのようにして作った歯を、歯科では総称的に「クラウン(王冠)」といっています。
調整が終了した歯は「接着性セメント」という接着剤を使って土台にくつけていきます。
これで治療は完了です。
あとはむし歯が再発しないよう、丁寧な毎日の歯ブラシと定期的に歯科医院でメインテナンスを行っていけば長持ちします。
-治療前と治療後を比較してみてください-
差し歯ができるまでの最初の状態から終了するまでの一連の流れを掲載します。
前歯がとれちゃいました。
見た目の問題もあるので一時的に仮歯を作りました。
土台を作り、歯の根に立ち上げていきます。これも特殊な接着剤で歯の根に土台をつけていきます。
型を取って石膏模型をおこして、その上で歯を作って生きます。これは金属ベースの上にセラミックで歯を作っています。
模型上で作成した歯を仮合わせしています。土台のうえの差し込むようにしてはまります。
出来上がった歯を歯科専用の特殊な接着剤で装着して完了です。
口元の仕上がり具合です。自然な歯に見えていると思います。
(治療過程の写真をweb上でこのような形で匿名で使用することは、患者さんご本人の承諾を得て使用させていただいております。この場をお借りしてご本人へ改めて御礼を申し上げます。)
反対咬合【うけ口】の矯正治療
(栃木県日光市の歯科 沼尾デンタルクリニックで実際に行われた治療例です。これらの写真は患者さんご本人の承諾を得て公開させていただいております。もちろん個人を特定できるものは一切掲載しておりません。)
矯正治療前
8歳 男児です。
上の前歯より下の前歯が前になってしまい、受け口状態になってしまっています。
まだ8歳であり、永久歯と乳歯が混ざっている混合歯列期です。
上下の前歯4本が生えたところで、前後逆になってしまい、受け口状態になってしまいました。
大人の歯にすべて生え変わるまで待っているより、今の状態を早期に改善したほうが良いので、矯正治療を行うこととなりました。
正面の写真です。
横から見た写真です。上の前歯より下の前歯が前になっているところが分かると思います。
上あごを下から見上げた状態です。前歯が凸凹して並んでいます。
下あごの写真です。
右斜め前から見た写真です。
左斜め前から見た写真です。
この状態を改善するために、矯正装置を取り付けて治療を開始しました。
矯正治療後
受け口状態(反対咬合)になっているものを矯正治療しました。
治療後の正面からの写真です。
横から見た写真です。上の前歯のほうが前になっています。
下から上あごを見た写真です。凸凹していたところは改善されています。
下顎の写真です。
右斜め前から見た写真です。上下の糸切り歯が生えてきています。
左斜め前から見た写真です。
治療前後の比較
治療前後の比較をしてみます
上が治療前の正面写真です。下が治療後の正面写真です。
上下の前歯の位置関係が改善されていることがよくわかると思います。
ここまでが生え変わりの時期の矯正の一次治療です。
今後奥歯に残っている乳歯が脱落して、永久歯が順次生えてきます。
生え変わった段階で歯並びに異常があれば、そこから矯正の二次治療が開始されます。
上が治療前、下が治療後の側面写真です。
上下の歯が完全に逆転しているのがよくわかると思います。
(治療過程の写真をweb上でこのような形で匿名で使用することは、患者さんご本人の承諾を得て使用させていただいております。この場をお借りしてご本人へ改めて御礼を申し上げます。)
噛まなくなった現代人に危険信号
-戦前に比べると、咀嚼回数は6割も減少-
「食事の時間を惜しんで、噛む時間が短くてすむ、柔らかいファストフードやジャンクフード(塩分、糖分、脂肪分が多く、栄養価が低いスナック菓子などのこと)のようなものばかり食べている現代日本人の咀嚼回数は、わずか数十年の戦前に比べると、約6割も減っています。
時代によって変わる咀嚼回数(1回の食事)
弥生時代 3990回
鎌倉時代 2654回
江戸時代 1465回
戦前 1420回
現代 620回
また、健康を維持するためには、本来は食事から必要な栄養素を適切に摂取することが大切なのに、安易に健康補助食品や栄養剤などを多用するという傾向もあります。こうしたことで、人間の生存にとって身体的にも精神的にも不可欠な、『咀嚼』という行動が疎かにされ、いろいろな問題が起きてきているのです。
小児や未成年者が、噛む回数が少なく柔らかい、ファストフードやジャンクフードばかり食べていますと、咀嚼筋とそれらが関連する顔やあごの骨の成長発達が遅れ、頭、顔、あご、口、さらに唾液を分泌する唾液腺、特に耳下腺の発達が抑えられ、あごが小さくなります。それに伴って、歯や舌の位置が不正となり、口呼吸となり、虚弱体質をつくることになり、顎関節症や種々の耳鼻咽頭疾患、姿勢障害、睡眠障害などを発症させやすくします。必然的に先ほど述べた咀嚼の効能も阻害されます。また、中高年以上でも咀嚼の効能が阻害され、健康に影響が及ぶことになります。」
小林義典教授はそう警告する。
-よく噛むには〝正しい噛み合わせ〟が条件-
健全な咀嚼は、咀嚼筋やあごの関節、あごの骨、それに歯や歯周組織、舌、唾液腺など、咀嚼系を構成する器官と中枢神経系が健全に働かなくては成り立たない。特に、咀嚼運動には、「噛み合わせ(咬合)」が具体的に関わるので、咬合に問題がある場合には、咀嚼にも影響が出てくる。現代の日本人が噛まなくなったのは、噛み合わせの不具合も影響しているということはないだろうか。
小林義典教授によれば、「噛み合わせが不安定だったり、損なわれている場合には、歯科治療を行い、適正に回復する必要があります」ということだ。悪い噛み合わせをそのままにしておくと、「ものが食べにくい」だけでなく、顎関節症や口腔顔面痛、口腔顔面変形、姿勢障害、全身運動機能低下、聴力障害などを起こしやすくなることもあり、脳内ストレスや睡眠中の歯ぎしりや噛みしめ、睡眠障害を起こす可能性もあるという。
「噛まなくなった現代日本人」は。今一度、「咀嚼」の重要性、「食べる」ことの正しいあり方について考え直す必要があるようだ。なによりも、健康長寿には、「咀嚼」が大切なことを再認識したい。
「噛むこと、そして食べることは、人間が生きていくための基本的な動作です。多くの動物では、噛めなくなることは命が終わることを意味します。家族が食卓を囲んで楽しく食事すること、そして健全な咀嚼は何かまで、『いかに食べるか』を考えることは、今、緊急の課題として、われわれが取り組まなくてはならないことだと思います」
噛むことの効用
-噛むことで心も体もリラックスする-
よく噛むことは、脳の活性化につながるだけではない。咀嚼によって得られる様々な効果が、今、明らかにされつつある。
例えば、咀嚼は心身のリラックス作用を引き出す。美味しいものを食べることで、脳の報酬系(歯が互いに接触したり、食物が歯や歯肉に接触することによる刺激)が刺激され、〝快情動〟が引き起こされる。すると、人を心地よい気分にさせる脳内物質「β―エンドルフィン」の分泌も促されるので、リラックス作用につながる。
実際、健康な人にガムを噛んでもらい、そのときの脳波を調べてみると、リラックスしたときに観察される「α波」が増加し、イライラしたり緊張しているときに出る「β波」の低下が認められる。それは、ガムを噛み終わったあとにも持続するという。
ガムなどを噛む効用には、ストレスを軽減し、緊張を和らげる働きもあるのだ。
-よく噛めば、肥満の防止と健康増進-
〝よく噛む〟ことは、肥満の防止になることが分かっている。よく噛めば、脳の「満腹中枢」が刺激され、脳内ヒスタミン神経系が賦活されるので、食欲が抑制される。同時に内臓脂肪が分解されて、体熱生産や放散が促進される。〝よく噛んで〟食事をすれば、肥満にならないということだ。
また、よく噛めば、口の中の粘膜から栄養素を吸収することも分かっている。さらに、食事をとることで上昇した血糖値を下げて正常化する作用があるので、糖尿病の治療効果を上昇させたり、予防的な効能もある。
その他、〝よく噛む〟ことの効用は、身体の運動機能の上昇、視力低下の予防、免疫力の向上、骨粗鬆症の予防などが報告されている。
特に、よく噛むと盛んに分泌される「唾液」の効用を忘れてはいけないと、小林義典教授は語っています。「唾液の分泌を促進すると、虫歯や歯周病の予防につながり、また、細菌の働きを抑えます。その他、食物中の発がん物質の働きを抑えたり、アレルギーに関わる抗原に加え、活性酸素を消失させます。さらに、ウイルスなどを直接攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞を増加させたり、老化を抑制したり、私たちの体にとって、大変重要な働きをしているのです。十分な唾液の分泌を促すためには、歯ごたえのある食物を一口で30秒、または30回以上よく噛む必要があります」
-よく噛んで唾液を出すことの効用-
味覚を助長
美味しさを味わい、脳を刺激してリラックス効果を生む。
消化・吸収を助長
消化酵素アミラーゼがデンプンを分解して消化を助ける。
成長を助長
唾液由来のホルモンが、上皮細胞の成長や神経細胞の増殖・脳細胞の成長を促す。
むし歯や歯周病予防
原因菌を洗い流すだけでなく、唾液に含まれるスタテリンが歯の再石灰化を促し、また歯を強くする。
口腔粘膜の修復
食べ物で傷ついた口の中の粘膜を修復する。
消火器粘膜の保護
唾液に含まれるムチンが、食べ物をオブラートのように包んで食道や胃の粘膜を保護する。
抗菌作用
抗菌作用のある唾液中のリゾチウムやラクトフェリンなどが細菌の働きを弱める。
食物中の発がん物質の発がん性を抑制
唾液酵素のペルオキシターゼが食物中の発がん物の発がん性を弱める。
活性酵素の消失
唾液中のペルオキシターゼが活性酵素を消す
NK細胞の増加
唾液中のラクトフェリンが免疫細胞のNK活性を増加させる。
老化の抑制
唾液中のEGF(上皮成長因子)やNGF(神経成長因子)などのホルモンが、老化を抑制する。
糖尿病の予防と治療効果の向上
唾液に含まれるIGFという物質がインシュリンと同じような働きをして、糖尿病の予防と治療効果を高める。
よく噛むことと脳のリハビリ効果
-よく噛めないと学習・記憶能力が低下-
噛むことの大切さを教えてくれる面白い実験結果があります。老齢期のマウスの奥歯を削り取り、学習・記憶力を測定したところ健全な歯を持つ老齢マウスに比べて記憶力が5分の1ほどに低下したといいます。
さらに削った歯を治療してよく噛めるようにしたところで学習・記憶能力が日ごとに回復していったというのだ。また、歯を治すことで、記憶力に重要な役割を果たす海馬の神経細胞も8割がた回復した。よく噛むことは脳の活性を向上させることがこの実験からも推察できるという。
人を対象とした疫学調査でも「歯の喪失と認知機能の関連」についてのデータがえられている。大規模な地域高齢者の健診では、認知症の疑いがあるグループほど、現在残っている歯の数が少ない傾向にあった。また、脳のMRI検査では歯が少ないほどに、海馬をふくむ側頭葉内側部や前頭・頭頂連合野領域の灰白質の容積が減少することがわかっている。
ここは記憶や空間認知、計算や思考をつかさどる重要な場所だ。噛むことをこんなにも脳機能に影響を与えている事実に改めて驚かされる。
-よく噛むことで脳が活性化する-
私たちは生活の中で歩くことや呼吸することと同じように、無意識のうちに咀嚼ソシャク)を行っている。しかし、食べ物を噛み砕いて唾液を混ぜて飲み込みやすくするという行為は、下あごの動きや唾液の分泌、舌をうまく使うなど、極めて複雑な運動の組み合わせで行われている。
日本咀嚼学会理事長の小林義典教授は、「咀嚼によって、機械受容性(歯が互いに接触したり、食物が歯や歯肉に接触することによる刺激 )、味、臭、温度などの三叉神経を介した強い感覚入力が脳の広い範囲に及び、脳が活性化されます。」と、咀嚼の果たす役割を次のように説明する。
まず、脳の網様体に入力されると情動や記憶にかかわる覚醒を生み、人間としての行動的な覚醒作用につながる。つまり中高年以上ではよく噛むことで、脳のリハビリテーション効果が期待できる。また高齢者では、寝たきり状態にならない予防効果もあるそうだ。
さらに大脳皮質に入力されると、情動や記憶にかかわることも入力される。たとえば幼稚園児や小学生、大学生に1日に3~4回、各10~15分間、毎日ガムを噛むことを2週間以上やらせると、テストの成績が上がっていくという。幼稚園児や小学生では、十分な咀嚼と知能指数との間に、相関関係が認められている。
脳活性化をあらわす脳血流量の増加は、咀嚼によって確認されています。咀嚼は手や指の運動よりも脳血流を増加させたという研究報告もあり、また、硬い食物のほうが柔らかい食物よりも効果があることがわかっています。つまり、歯ごたえのある食物を食事に取り入れてよくかむことは脳の活性化にきわめて重要であるといえます。
ちなみに姿勢も重要で、寝たままあるいはリクライニング状態では脳の活性化が望めません。少なくとも上半身をまっすぐに姿勢を正して、咀嚼しなければなりません。