(栃木県日光市の歯科 沼尾デンタルクリニックで実際に行われた治療例です。これらの写真は患者さんご本人の承諾を得て公開させていただいております。もちろん個人を特定できるものは一切掲載しておりません。)
歯が抜けてなくなってしまった場合は不都合なことがたくさんあります。
まず見た目が悪い。見える場所の歯が抜けていると非常に見た目が悪くその人の顔の印象も悪くなってしまいます。
次に、食べずらくなります。抜けた分だけ咬みにくくなり食事が困ります。
そして発音も悪くなります。特に前歯の場合は息が漏れるのでうまく発音することができません。発音がうまくできないと周りの人に話が通じにくくなります。
上の写真は前歯が2本なくなっています。そのなくなった歯を作るために「ブリッジ」という方法で歯を作成していきます。
ブリッジはなくなってしまった歯の両脇の歯を土台として橋をかけるように歯を入れます。その場合、両脇の歯はむし歯があろうとなかろうと歯を作るために無条件で削ることになります。これがブリッジを行ううえで一番のデメリットです。
上の写真は3本を土台として5本分の歯をブリッジで作っていくために、3本の土台を削り終わったところの写真です。
ブリッジを装着すると、パッと見た感じは歯が無いようには見えませんが、3本の土台の歯で5本分の歯を支えているので、3本の土台の歯には大きな負担がのしかかってきます。これもブリッジのデメリットですが、歯が無くなってしまった代償としては大きなものとなってしまいます。
そのため自分の歯を悪くすることなく使っていくことは本当に大切なことです。
そのためにはやはり予防していくしかありません。
(治療過程の写真をweb上でこのような形で匿名で使用することは、患者さんご本人の承諾を得て使用させていただいております。この場をお借りしてご本人へ改めて御礼を申し上げます。)
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PMTCとはどのような処置ですか?また、その効果は?
Question PMTCをすすめれましたが、あまりすると歯ぐきに悪いと聞きました。実際のところはどうなのでしょうか?
Answer 適切なPMTCであれば、歯ぐきに悪いどころかどんどん健康になっていきます。
PMTCとは、歯科医師や歯科衛生士の専門家による機械的紙面清掃のことをいいます。歯ブラシでは落としきれないプラーク(バイオフィルム)を、いろいろな機械・器具を使って徹底的に落として、きれいな歯面に仕上げていきます。
このプラークは細菌の塊ですから、長期間そのままにしておくと、口臭はもちろん、むし歯や歯周病の原因にもなります。ですから、定期的に歯科医院でPMTCを行うことは、予防や健康な口腔の維持という点から大きな効果をもたらします。
では、PMTCはどのくらいの間隔で行えばよいのでしょうか。一人ひとりの口のなかの環境が異なっているので個人差がありますが、通常4~6ヵ月に一度、症状によっては1~3ヶ月に一度の間隔で行うのが標準です。
ご質問についてですが、適切なPMTCであれば、歯ぐきに悪いということはありません。ここでいう、〝適切なPMTC〟とは、歯や歯ぐきにダメージを与えずに、隅々まできれいに仕上げることをいいます。術者のテクニックが問われるところですが、適切なPMTCであれば、歯ぐきに悪いどころか、どんどん健康になっていきます。
自分自身で毎日行うブラッシング(セルフケア)に加えて、定期的なPMTC(プロフェッショナルケア)を組み合わせることが、自分のお口の健康、そして全身の健康を維持することにつながります。まずは歯科医院に行って診てもらい、自分に必要なPMTCの方法や間隔を決めてもらいましょう。
喫煙で歯周病を悪化させると聞きましたが、どんな影響があるのですか?
Question 夫が喫煙者です。喫煙で歯周病を悪化させると聞きましたが、どんな影響があるのですか?副流煙にされされている私も歯周病になりますか?
Answer さまざまな悪影響があります。タバコの害をご主人にお話し、禁煙をすすめてみてください。
喫煙を歯周病の関係についてお話すると、まず、一日の喫煙本数と喫煙年数が、歯周病の進行度に比例することがわかっています。つまりヘビースモーカーの方は、タバコを吸わない方より歯周病の進行の度合いが強く、歯を失う大きな危険にさらされています。
その原因のひとつは、煙の中のタールなどのヤニが歯の表面について黒く着色し、歯の表面がザラザラになり、むし歯や歯周病の原因のプラーク(歯垢)がたまりやすくなるためです。また、煙の中のニコチンは歯ぐきや粘膜から吸収され、毛細血管を収縮させて血の巡りを悪くし、バイ菌と戦う免疫を担う白血球などの細胞の働きをくるわせ、さらに傷口を治す細胞の働きを鈍らせるのです。
これらは歯周病の原因であるバイ菌の侵入を容易にするとともに、歯周病の治療をしても歯医者さんの思いどおりに治りにくいことを示しています。よって現在では治療前に禁煙をすすめる歯医者さんが増えています。
喫煙には、口から吸い込まれるタバコの煙(主流煙)を吸う能動喫煙と、タバコの先からたなびく煙(副流煙)を吸う受動喫煙があります。おそらくあなたは受動喫煙をしていることになります。副流煙の中の有害物質の量は主流煙より何倍も高く、非喫煙者の夫を持つ妻に比べ、喫煙者の妻の発がんの危険性が高いことが報告されています。
歯周病に関してははっきりした研究報告がありませんが、喫煙者の子どもに歯肉が黒ずむメラニン色素沈着が多くみられることから、副流煙がなんらかの影響を与えていると考えられます。
口臭のおもな原因は何ですか?なぜ臭うのでしょうか?
Question 口臭のおもな原因は何ですか?なぜ臭うのでしょうか?
Answer 歯周病やむし歯の原因菌が腐敗臭を作り出しているのです。
地球上の生き物には臭いがあります。別な見方をすれば、臭いは生きている証でもあるのです。ただ、臭いには心地よい臭い(香り)もあれば、不快な臭い(悪臭)もあり、その種類は200を超えるそうです。
さて、口臭はもちろん悪臭ですが、その原因はさまざまで、全身的な病気、お口の病気あるいは精神的な病気が関係していることが多いようです。口臭は健康のバロメーターともいえるかもしれません。口臭の原因でもっとも多いのは、お口の不健康です。そこで、ここではお口から発生する口臭物質についてお話しすることにします。
口臭を引き起こすお口の不健康な状態の代表は、歯周病とむし歯です。この2つの病気は「口腔の二大疾患」ともよばれ、非常に多くの人がかかっています。ということは、口臭のある人も同じく多いことが想像されます。
では、歯周病やむし歯があるとどうして口臭が発生するのでしょう。それは、これらの病気がお口の中の細菌によって起こされることと関係しています。
歯周病やむし歯の原因菌は、お口の中に存在するタンパク質(細胞や食べ物のカスなど)を分解します。これが口臭の元で、臭気物質とよんでいます。なかでも、口臭との関係が証明されているのは揮発性硫化物で、肉や魚が腐ったときのあの強烈な臭いの元となるものです。歯周病やむし歯がある人のお口の中では、細菌がせっせと腐敗臭を作り出しているのです。
つまり、お口の中をきれいに保つことは、歯周病やむし歯予防につながるだけでなく、口臭予防にもとても大切なのです。
お口のリハビリはどんな方法がありますか?
Question 咀嚼が苦手になってきているお年寄りに、お口のリハビリをすると効果があると聞きました。どんな方法がありますか?在宅でもできますか?
Answer 歯がない場合は入れ歯やブリッジを入れ、しっかり噛んでもらいましょう。
年をとるにつれ、食べにくい食品が増えてきてきます。かむ力が弱くなってくるからです。また、歯の数も年齢とともにむし歯や歯周病にかかって少なくなります。硬い食品や噛み切りにくい食品が苦手になってきます。でも、食べやすいものばかり選んで食べては、バランスの取れた食生活を送ることができません。
まず、すでに喪失した歯に対しては歯科を受診して、取り外し式の入れ歯や固定式のブリッジを入れてもらいましょう。喪失した歯をそのままにしておくと、はがなくなったためにできた空白を埋めるように、周囲の歯が傾きます。その結果、歯のない状態で放置しておくと歯が斜めになってしまうのです。
歯は縦方向にには強い力を発揮しますが、傾斜して斜めになってしまうと、垂直にかかるかみ合せの力に十分抵抗することができません。ぐらぐら動揺してきます。歯がなくたんったら、傷が治り次第早めに入れ歯やブリッチを作ることが、残った歯を犠牲にしない対処法です。
自分の歯または入れ歯などでかみ合うところが確保されたら、しっかりかんで食べることです。使わない機能は衰えます。これを廃用といいます。軟らかいものばかり食べていると、かむ力を発揮する咀嚼筋が弱くなり、次第にやせてきます。
こうなると、もとの咀嚼力に戻すのは困難です。無理のない範囲でしっかりかんで、お口のリハビリに努めることがバランスのとれた栄養をとる秘訣です。ただし、入れ歯の咀嚼効率は自分の歯と比べるとうんと低下します。日常の歯の手入れがもっとも重要といえます。
矯正装置をつけている間は、どんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Question 矯正装置をつけている間は、どんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Answer お口の中を清潔に保ち、硬い食べ物はなるべく避けましょう。
矯正装置は自分で取り外しのできないものがほとんどで、治療開始から終了までの1~2年間、ずっとお口の中に入りっぱなしになります。しかもとても複雑なつくりですから、装置装着中はとにかくお口の清掃状態に気を配ることが重要です。
「食べたらみがく」というのは当たり前のことですが、装置がジャマして上手にみがくのが難しいのです。矯正治療中は歯ブラシだけでなく、補助歯ブラシやデンタルフロスなどを駆使して、時間をかけてみがくがひつようです。
また、毎食後完璧にみがくのは、時間的制約のある現代人には大変です。時間のない食後は簡単でもかまいません。少なくとも一日一度は時間をかけて、ていねいにみがきましょう。
きちんとみがかないと、むし歯や歯周病になってしまいます。何のために矯正治療をしているのかを考えて、とにかく口腔清掃に注意してください。フッ素塗布や洗口剤の利用を補助的に行うのも良い方法です。
矯正装置は、強力に歯の表面に付いているわけではなく、ある程度の力が加わると外れるようになっています。
治療中はナッツ類、おせんべい、フランスパンなど硬い食べ物をかじるのは避けましょう。硬いものは小さくちぎって、奥歯でかむようにします。そうしないと、装置が壊れる可能性があります。
チューインガムは、装置に慣れてきたら、100%キシリトール入りなら食べても大丈夫です。このガムはむし歯菌を抑制することでも知られていますので、ときには積極的にかんでもらうこともあります。
フッ素を塗っていたのに、むし歯はできる?
Question 歯科医院でフッ素を塗っていたのに、むし歯ができてしまいました。なぜですか?
Answer よく誤解されますが、フッ素だけではむし歯は防げません。
フッ素を塗っただけでは、むし歯の予防はできません。むし歯に限らず、病気にならないようにするには原因を知り、それに対する対策が必要です。
むし歯は「歯」「細菌」「食物」の三つの要素の存在により起こります。いずれの要素も完全になくすことはできません。そこで、おのおのの要素のかかわりを変えることで、むし歯の予防を考えなければなりません。
まず歯ですが、歯がなければもちろんむし歯にはなりませんが、食事ができません。歯が細菌の出す酸で溶けるとむし歯になるので、溶けにくくすればむし歯になりにくくなります。
それはフッ素が有効です。いくつかの方法のなかで、歯みがき後のフッ素の使用(洗口、ジェル、スプレーなど)は歯を強くするだけでなく、細菌の活動を低下させるといわれており、歯みがきが充分できないお子さんには効果的です。
次に細菌ですが、細菌の数が少なければ作られる酸の量が少なくなり、歯を溶かすのに時間がかかります。結果としてむし歯になりにくくなります。このためには、細菌の巣となる歯垢を毎日の歯ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)で取り除くことが必要です。
最後に食物ですが、主に砂糖などの糖質が問題です。糖質は細菌が活動するための栄養となります。栄養源がなければ細菌の活動は活発にはなりません。
おやつには菓子類が多いと思われますが、回数や内容はむし歯の発生に大きく関係します。また、飲み物の糖質についても配慮が必要です。おやつのとり方に工夫をしてみてください。
子供の歯並びをよくするにはどんなことに気をつけたらよいか?
Question 子供のかみ合わせや歯並びをよくするには、小さいころからどんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Answer よくかむこと、むし歯にしないこと、悪習癖を止めることが重要です。
不正咬合の原因には先天性原因と後天性原因があります。遺伝などの先天性原因の不正咬合を防ぐのは難しいですが、後天性原因は日常生活に注意すればある程度予防できます。
① よくかむこと
乳歯は2歳半くらいに完成し、6歳臼歯が生えるころまでが一番成長する時期ですので、この時期によくかむことが重要です。乳歯間に隙間ができて、永久歯の場所が確保されます。
「一口ごとに30回以上かんで」などといわれますが、私は一口でいつもより3~5回分余分にかむことから始めてもらいます。そして毎食一品はかみごたえのある食材(ごぼう、レンコンなど何でも)を食べてもらうよう指導しています。
②むし歯にしないこと
乳歯をむし歯にして抜いてしまうと、永久歯のための隙間は減少してしまいます。乳歯間に十分な隙間が確保されれば、ガタガタの歯ならびは防げるはずです。むし歯になったらすぐに治してもらいましょう。
③悪習慣をやめること
指しゃぶり、異常嚥下癖、舌前突癖などは、よい歯ならびの妨げになります。また、ほおづえや寝る姿勢(うつぶせ寝や同じ向きで寝る)も顔面非対称の原因となります。口呼吸も歯ならびの大敵です。鼻炎や扁桃肥大などで、鼻呼吸ができない場合もありますので注意が必要です。
お子さまの歯みがきをときどきチェックするとともに、かみ合わせも常に注意してみましょう。受け口や出っ歯などはわかりやすい不正咬合です。乳歯がいつまでも残っていたり、かみ合わせが気になっている場合は矯正医に早めに相談してみましょう。
歯石がたまっている
Question 歯石がたまっているのですが、どうしたらよいのですか?
Answer 歯科医師や歯科衛生士に歯石を除去してもらいましょう。
むし歯や歯周病の原因のプラーク(歯垢)は、放置しておくと、唾液や血液の成分を吸って徐々に硬くなっていきます。それが歯石とよばれるものです。
その表面はざらざらしているために、さらにプラークが付きやすくなり、石になる際に歯周病の病原菌を封じ込めているため、プラークと同じく歯周病の原因となります。よって、歯から完全に除去する必要があります。
その方法は、主に二通りあります。
ひとつは、スケーラーまたはキュレットとよばれる手用の器具を使い、先に付いた刃を利用して、歯の表面から歯石をがりがりと削り取る方法です。これはとくに歯ぐきにもぐり込んでいる深い部分の細かい歯石を取る際に便利です。
もうひとつは超音波スケーラーという器械を使って、器械の先端部分の超音波振動を利用して、歯石を破壊してしまう方法です。これは歯ぐきの上の部分の多量の歯石を取り除く場合に役立ちます。また歯ぐきの下の頑固な歯石を取る際に使うこともあります。
歯周病が治りにくいのは、この歯石が歯の根の表面のいろいろなところに潜んでいるからです。歯科医師や歯科衛生士はこれらの歯石を見つけ出し、排除するエキスパートです。
1回で取り切れない場合は、同じ場所を何回も行うことがあります。
それでは、歯石を付けない一番の予防法は?そうです、歯石の前身であるプラークを、歯みがきによってきれいに取り除くことです。
歯との付き合い方 青年期以降編
-むし歯より歯周病が大問題!-
むし歯は、生えはじめてから年数のたっていない歯ほどかかりやすく、そして、唾液の中に含まれている成分が歯の表面をだんだん硬く、強くしていきます。ですから、むし歯に対しては、青年期以降は抵抗力をもつようになります。
しかし、それとは裏腹に、そのころになると歯ぐきのほうに問題が生じてきます。
つまり、歯周病が少しずつ出てくるようになるのです。
━成人の75%が歯周病!━
歯周病はむし歯と並ぶ歯科の二大疾患です。日本人で、成人の75パーセント以上のヒトが歯周病で、さらには35歳以上で歯周病のない健康な歯肉(歯ぐき)をもつ人は、100人に1人もいないといわれています。
歯周病は、人類の歴史のなかでも古くからある病気で、古代遺跡から発掘された頭蓋骨からは、歯周病にかかっていただろうと思われる痕跡が発見されています。紀元前1300年にはもう、歯周病予防のために歯をきれいにする試みがあったという記録が残っています。
-歯肉炎と歯周炎-
歯周病には、歯肉炎と歯周炎があります。簡単にいうと、炎症が歯肉部にのみ見られるものを歯肉炎といい、炎症が歯肉よりもさらに深く影響して、歯根膜や歯槽骨が破壊されている場合を歯周炎といいます。
このような歯周病の約9割は「成人性歯周病」と呼ばれるもので、幼児に発生することは、たいへんめずらしく、しかし、青年期以降の人にはきわめて多くなります。歯周病がどのように起こるのかを、戦争にたとえて次回に説明してみましょう。
-歯周病を戦争にたとえてみると-
敵は、もちろんプラーク内に住んでいる歯周病の病原菌です。からだを守る味方の防衛軍として、いろいろな細胞や物質が働いています。
敵にいちばん近い前線は、歯肉の上皮部、とくに歯と接している部分です。ここでは、好中球という白血球の一種がパトロールしています。好中球は非常に速いスピードで現場に到着し、「貪食能」(食べて殺してしまう)という武器によって敵をやっつけることができるのです。
しかし、このパトロール隊には、軍隊の本部(免疫システム)と無線連絡する装置がありません。
前線をパトロールしているもうひとつの細胞は、大食細胞(マクロファージ)です。このパトロールカーはそれほどスピードは出ませんが、本部と無線連絡を取ることができます。また、この大食細胞は、好中球と同じように、細菌を食べる貪食能によって、敵をやっつけることができます。
敵の数が多くて、手に負えなくなると、車についている無線を使って、本部へ敵の襲来を知らせます(これを抗原提示といい、免疫反応がスタートします)。
連絡を受けた本部は、急遽、軍隊や武器を前線に送り込むことになります。この際、大量の物資を短期間のうちに現場に送り込まなければなりません。そうすると、従来の細い道路(血管)では、十分に武器や軍隊を送ることができないため、どうしても広くて立派な軍用道路が必要になります。広い軍用道路ができることは、からだにとっては血管が広がる現象(充血)に相当します。炎症が起こると赤くなり熱っぽくなるのはこのためです。
林を切り開いたり、山を削って道路を急いでつくるのですから、道路のまわりには工事用の物資が雑然と置かれることになります。これは、からだにとっては、血管の中から液状成分がしみだした「浮腫」という現象にあたります。
また、こうした工事用物資(液状成分)は不要となって道路(血管)の外に出るのではありません。液状成分のなかには生体にとって重要な物質が含まれており、細菌の毒素を薄めたり、細菌がからだの中に入らないようにする大切な働きをしています。
いずれにしても、炎症があるとその場所が腫れあがるのは、この浮腫が原因なのです。
本部(免疫システム)から前線(歯周組織)までの軍用道路(血管が広がった状態)ができ上がると、軍隊が派遣されます。
まず、好中球が猛スピード前線に向かい、その後を大食細胞が追って軍用道路に走っていきます。さらにその後を戦車に乗った主力戦闘部隊は、B細胞と呼ばれるリンパ球で、この中には特殊工作部隊(形質細胞)も含まれていて、ともに、抗体という武器で敵をやっつけます。
B細胞も形質細胞も、大量の武器(抗体)をつくり、これで敵(細胞)と戦います。
戦闘部隊の指揮官は、T細胞と呼ばれるリンパ球です。戦闘状態に入ると、民間の地下組織、つまり民兵(補体)も加わって、敵と戦います。
-歯槽骨と歯肉の破壊-
戦争が長引くと、軍の指揮官であるT細胞が命令をして、付近の民家や畑をこわし、平地にして戦車を並べます。T細胞や大食細胞から放出された物質が、民家や畑にあたる歯槽骨や歯肉結合織を破壊するのです。
このように、生体を守るために自然の環境(健康な歯周組織)を破壊して、戦闘状態に入ったのが歯周病(歯周炎)なのです。
歯周病になると歯ぐきから血が出ます。これは、軍用道路ができて充血状態になり、軽い傷でも簡単に出血してしまうからです。
また、歯ぐきが腫れあがるのは、軍用道路を急いでつくったために道路の周辺に工事用物資が放置されて、浮腫という状態になるからです。
歯の周りからウミが出るのは、パトロールカーに乗って戦った好中球の死骸がたくさんたまっているからです。
歯がグラグラするのは、戦闘状態に入って歯槽骨や歯肉結合織が壊されることによって起こります。
歯ぐきが退縮するのは、敵の攻撃を受けて、住民の周囲を破壊しながら前線が後退しているからです。
戦いの末に、歯が抜け落ちると、歯の周りに付着していた敵(歯周病原菌)がいなくなりますから、腫れや痛みといった炎症症状はおさまります。
歯周病の発生のしくみがおわかりになったでしょうか?
敵はプラークの中に潜んで、着々と戦力を強化し続け、攻撃してくるのです。おそろしいことです。これを防ぐためにも、いつもていねいにブラッシングをして、プラークを取り除いておきましょう。
-歯周病の進行には個人差がある-
むし歯と歯周病という歯科の二大病の中でも、青年期以降にクローズアップされるのが歯周病だということをおわかりいただけたかと思います。
しかし、実のところ、細菌部隊の規模や強さには人によって違いがあり、また、からだを守る防衛軍の戦闘能力にも個人によって差があるのです。
病気の原因は、「外界から作用するもの(外因)と、生体側に関係するもの(内因)があり、両者が複雑に作用しあって発病する」と考えられています。
つまり、外因と内因とのバランスの問題で、生体はヤジロベエのようにうまくバランスを保ち健康な状態を守っているのですが、このバランスが崩れたときに病気が発症することになるのです。
-からだの抵抗力が弱いと・・・-
歯周疾患では、プラーク内にある細菌が外因として、生体の抵抗力が内因として作用します。
したがって、生体の抵抗力が同じであっても、細菌の量が増えればバランスは崩れます。
その一方で、細菌の量が同じでも、からだの抵抗力が低下すると、やはり外因と内因のバランスが崩れて歯周病が発生する(またはなかなか治らない)ということになります。
ある患者さんは、プラークをいっぱい歯にくっつけているのに、歯肉にはほとんど炎症が見られない。また、ほかの患者さんは、よくブラッシングしているのに、炎症症状がなかなか改善しない、ということがしばしば起こります。
前者は、プラーク内の細菌も多いけれど、からだの抵抗力も強いため、歯周病が起きていないと考えられます。
また、後者は、プラークは少ないけれども、からだの抵抗力が弱っているために歯周炎が起き、改善しにくいと考えられるのです。
-歯がグラグラする前に何ができるか?-
外因となる歯周病の細菌については、近年のすぐれた研究によってだんだんと詳しいことが明らかにされてきました。その結果、歯周疾患にかかわるさまざまな細菌検査が歯科の臨床に取り入れられつつあります。
プラーク内の細菌の種類を調べたり、炎症の時期(現在安定しているか、それとも急激に悪化しそうか)などの予測ができるようになってきました。
歯周治療にあたっては、スケーリング(歯の周りについたプラークや歯石を取り除く方法)、ルートプレーニング(歯根についたプラークや汚れを取り除く方法)があります。専門的なプラークコントロールは、歯科医院で受けることができます。プラークコントロールが、歯周病予防や治療においては大変重要です。
比較的軽度の歯周病の治療は、プラークや歯石を取り除いて清潔に保ちます。
また、不適合な入れ歯や冠は調節し、グラグラし始めている歯なら、固定して安静を保ちます。
けれどももっとも大切なことは、正しくていねいなブラッシングです。歯科医師や歯科衛生士からあなたに合ったブラッシングの方法を指導してもらい、また、適切な歯ブラシ・デンタルフロスや歯間ブラシの使用方法を知る必要もあります。
ひどくなる前に、歯科医院で行うプラークコントロールはたいへん効果的です。
歯周ポケットが深くなり、歯槽骨の吸収がひどくなった、程度の進んだ歯周病の場合は、手術で歯の根の部分の汚れや、炎症を起こした部分を取り除くことなどが必要になります。
-全身の健康と歯周病-
まだ、からだの抵抗については、ストレス・ホルモン・全身疾患などと関連があるといわれています。糖尿病などの全身的な病気のある場合には、その治療を徹底的に行うことがいうまでもなく必要です。
全身的な病気との直接的な関係が、近年少しずつ明らかにされてきています。これらの病気があると、かなり重い歯周病の症状を示すことが多いようです。
どうですか?
老後を自分の歯で過ごし、QOLの高い生活を送るには、日ごろからのケアが必要なことがおわかりになったかと思います。