食育は歯の健康から

-子どもの食習慣-

こどもたちの食環境が変化しています。1人で食べる、家族それぞれが別のものを食べる、同じものばかり食べる、高タンパク・高脂肪の食事が好き、濃い味付けを好む。そんな子どもたちが増えています。
子ども達が豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身につけていくには何よりも「食」が大切です。そこで食育を生きるうえでの基本、知育・徳育・体育の基礎と位置づけ、家庭や学校、地域における教育を推進するために食育基本法が制定されました。
幼児期からお箸を使って食べ、お母さんと一緒に料理する、正しい栄養の知識・生活習慣を身につけ、実行することが大切です。そのためには親や学校関係者のみならず地域ぐるみで子どもたちをどう育てていくかを考えることが必要です。さらにレストランや生産者がカロリー表示を分かりやすく表示する努力も欠かせません。
食育は子どもだけに必要なものではありません。大人も含めひとりひとりが食事内容や食習慣を考えなおし、生涯を通じた健康づくりを心がけてほしいとおもいます。

-食べる機能の発達について-

歯や口の健康が維持されていれば、おいしく食べられ、体や心の健康が維持できるだけでなく、食べる機能や言葉の発達も促されます。そのために正しい食生活と適切なケアによって、清潔で健康な歯・口を保つことが大切です。
新生時期から幼児期、学童期にかけて、子どもの歯や口は劇的に変化します。そのため、それぞれの時期に応じた口腔ケアが大切になってきます。

-食べる機能の発達について 乳児期-

乳児期では顔や口の周りのマッサージからはじめて、さらに指磨きで口に触れられることに慣れさせて、はみがき習慣の準備と導入をはかります。乳歯が生え始めたら、ガーゼ磨きや歯ブラシの感触慣らしをはじめましょう。

-食べる機能の発達について 幼児期-

乳臼歯が生えてくると、むしば菌が定着しやすくなります。1日1~2回、食後の歯磨きを習慣づけたいものです。家族みんなが歯を磨き、それを子どもが見ることで慣れやすくなります。実際に歯ブラシを持たせ、磨く意欲を育てることも大切です。
乳歯が生えそろうと、歯垢が残りやすくなります。食後の歯磨きを習慣づけ、自分で磨く意欲と技能を育てましょう。寝る前に仕上げ磨きを、親子のコミュニケーションの場とするのもよいでしょう。

-食べる機能の発達について 学童期-

学童期になり、永久歯に生え変わると、歯並びの個人差が大きくなります。そのため、自分の口の状態にあった磨き方を覚えることが大切です。この時期になると、自分でほぼ磨けるようになりますが、生えたての永久歯には仕上げ磨きやチェックが必要です。また、歯と歯の間を磨くのにフロスの必要性が高くなります。効率よく磨くには電動歯ブラシも有効です。
「歯と健康のシンポジウム」より

1日でホワイトニング -歯科医院で行うオフィスホワイトニングー

(栃木県日光市の歯科 沼尾デンタルクリニックで実際に行われた治療例です。これらの写真は患者さんご本人の承諾を得て公開させていただいております。もちろん個人を特定できるものは一切掲載しておりません。)
「ホワイトニング」ってご存知でしょうか?
簡単に言えば「歯を白くする」ということです。
でも歯を白くする方法はいろいろあります。
・詰め物をつめる。
・セラミックの歯を入れる。
・つけ爪のようにセラミックのシェルを貼り付ける。
・マニキュアのように歯の表面に塗る。
・歯科医院で機械を使って歯を磨く。
など・・・・いろいろな方法があります。
そのなかでもホワイトニングと呼ばれるものは、「薬剤を使って歯の色を白くする」という方法です。
ホワイトニングにも大きく分けて2種類の方法があります。
歯科医院で行うオフィスホワイトニングと自宅で行うホームホワイトニングがあり、これらは目的によって使い分けます。
1日でできるホワイトニングはオフィスホワイトニングのほうです。
これについて処置の流れを写真を使って簡単に説明したいと思います。

1.ホワイトニングの前にすること


まずはじめに、ホワイトニングについて詳しく説明します。
どのように処置を行うのか。
どの程度白くなるのか。
今のあなたの口の中の状態はどうなのか。
そこには問題点はないのか。
そのようなチェックをしながら説明をしていきます。
白さの判定は「シェードガイド」というもので判定をします。
暗い色のものから明るい色まで段階的に並んでいるものです。 ホワイトニングをする前と後で白さをチェックして判定をします。

2.開口器装着



口をあけておく装置をつけたところです。
ホワイトニング剤を歯に塗ったときに、唇に触れないようにすることと、そのホワイトニング剤に十分に光が当たるようにするための装置です。

3.歯肉を保護するために



歯肉をホワイトニング剤から保護するためのダムを特殊な薬で作っています。
青いゲル状のものを光で固めて、ホワイトニング剤が歯肉に触れないようにします。
下の写真は歯肉保護ダムの完了した写真です。

4.ホワイトニング剤の塗布




いよいよ歯を白くするホワイトニング剤を塗布します。
ホワイトニング剤は歯に塗る直前に混ぜ合わせて、半透明のゲル状のものを塗っていきます。
パッと見て見える範囲に薬を塗っていきます。目安としては上下顎とも犬歯(糸切り歯)の1~2本奥まで塗っていきます。

5.ホワイトニング剤へ光を照射して活性化



ホワイトニング剤を活性化させるために、10分間、専用の機械で光を当てます。
これにより歯の内部にある着色物質の分解が始まり、それが外に放出されることによって白さが出てきます。

6.ホワイトニング剤をとっていきます



10分間の光照射が終わったら、余ったゲル状のホワイトニング剤をサクションで吸っていきます。ある程度きれいに吸い終わったら、これで1クール終了です。
「1日でホワイトニング」の5・6・7の行程を3回繰り返します。
つまり、10分間を3クール行います。

7.歯肉保護剤を取り除きます



ホワイトニング剤を塗って光照射を3クール行うと終了です。
歯肉保護ダムを取っていきます。ダムは固まっているため写真のように一体となって剥がすことができます。
ダムを取ったあとに開口器をはずしていきます。

8.仕上げのポリッシング



開口器を取ったあとに口をゆすぎます。
その後、歯ブラシを使って細かいところに残っているホワイトニング剤を取って完了となります。
ここまでが1Dayで行うホワイトニングです。

沼尾デンタルクリニックで行ったオフィスホワイトニングの Before & After はこちら
(治療過程の写真をweb上でこのような形で匿名で使用することは、患者さんご本人の承諾を得て使用させていただいております。この場をお借りしてご本人へ改めて御礼を申し上げます。)

女性の元気は口元から

-Dr.志村対談集-
女性歯科医師である 志村先生による、 女性向けの歯科の話をご紹介していきます。
女性に対するむし歯や歯周病の治療の話を対話形式で書いてあります。
思春期・女性ホルモンについて・妊娠・出産・骨粗しょう症・更年期・ドライマウス・老年期など女性特有の話題とはとの関係が満載です。
思春期から成熟期を経て更年期へ
女性のからだは年齢にしたがって変化していきます。
その変化のかじ取りをしているのが女性ホルモン
ところで、このホルモンが女性の口の健康と
深い関わりがあることをご存知ですか?
それぞれのホルモンステージごとに
起こりがちなトラブルとその原因を知って
予防と、いきいきした毎日に役立ててください

Dr.志村(NTT東日本関東病院歯科口腔外科)

(Dr.志村対談集)

-なぜ女性外来?-

━志村先生は、勤務医として歯科口腔外科で「ドライマウス外来」を、そしてご自分の歯科医院で「ドライマウス女性専用外来」を開設なさっておられるんですね。
志村
はい。ドライマウス外来は2000年に、ドライマウス女性専門外来は2003年にはじめました。
━ 歯科のジェンダー医療として、先生の医療活動が健康雑誌や週刊誌にもとりあげられて話題になっています。「ジェンダー医療」は、内科やがん治療などでしばらく前から盛んで「女性外来」が好評だと聞いていますが、歯科医療でも「女性外来」が誕生してきているとは、最初は意外な感じがしたんです。
志村
そうかもしれませんね。ところが、口のトラブルには、女性ならではの症状と原因があるんですよ。このことがまだ広く知られていないのが残念です。

-ホルモンで変化する女性の一生-

志村
私は、医師や看護師、管理栄養士などで組織する「性と健康を考える女性専門家の会」に歯科医師として参加させていただいています。女性のための医療の推進を目指す会なのですが、ここで学んだこと、そして啓発活動を通じて考えたことが、歯科の「女性外来」を通じて病気や、そしてからだ全体を診ていこうという思いへとつながっているんです。
━そうなんですか。
志村
成長し、成熟し出産期をむかえ、その後更年期を過ぎて高齢期へと続く女性の一生には、さまざまなホルモンステージごとに特徴的に、口のトラブルが起こりやすいことがわかってきています。その多くは女性ホルモンの影響によるものなんです。
それで、歯科医療でも、遅ればせながらジェンダー医療がはじまっているんです。

-迷信に惑わされないで-

━男性と女性では、そんなに口のトラブルに違いがあるんですか。
志村
はっきりとあります。
「ホルモンによって、女性の一生は変わっていく」といい切れるほど、女性のからだは女性ホルモンの影響を受けています。
女性は、女性ホルモンの分泌が増える思春期ごろから、体型が急速に変わっていきますよね。初潮から、10歳代、20歳代と成熟期をむかえます。このように、女性のからだは男性とはまったく違った成熟を示すわけです。
女性に特有の口のトラブルというと、たとえば「女性は出産すると歯が弱くなる」と聞いたことがありませんか?こうしたことはたしかに昔からいわれてきたのですが、「赤ちゃんがカルシウムをたくさん使うから仕方ないんだ」、という迷信を信じて、あきらめてきてしまったように思います。
━たしかに、出産後に歯の悩みを抱えるようになったという話はよく聞きますね。

-口の健康をどう守る?-

志村
ホルモンステージの変化は、女性の「からだの変化と健康の節目」でもあるわけです。ですからホルモンステージの視点から歯科的にアプローチするのことは、口の健康を、「全身の健康を支える重要な機能」としてとらえて治療を行っていくうえで、とても大切なことなんです。
ホルモンステージごとに、どんなトラブルに気をつけたらよいのか、予防のためにどんなことをすると効果的か、いざトラブルが起こってしまったときに考えられる原因は?、などの情報も患者さんに届けることができますからね。
女性のホルモンステージの分類
思春期(6歳~18歳くらい)
成熟期(18歳~40歳代半ば)
更年期(40歳代半ば~50歳代半ば/個人差あり)
老年期(65歳以上)

-女性ホルモンと歯周病-

━それはこころ強いですね。でも、なぜ女性ホルモンが女性の歯と口に深く関係するんでしょうか。
志村
女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。こうしたホルモンは、月経、妊娠などに作用するほか、自律神経、感情の働き、皮膚、骨、筋肉など全身に影響を与えます。それと同じように、口にも影響を与えるわけです。女性ホルモンのプロゲステロンは、歯肉の血管に働きかけて、歯肉溝(歯と歯ぐきのあいだにある溝でプラークがたまりやすく歯周病の原因になりやすいからの浸出液の分泌を増やします。そして、毛細血管の内皮細胞を変化させて、炎症反応も増やします。つまり、少しのプラークでも炎症が起こりやすくなるので、歯周病になりやすいわけです。
━それでは、女性ホルモンがたくさん分泌されているときには、歯周病になりやすいということですか
志村
そうなんです。そのため、女性ホルモンの分泌が急速に増える思春期や妊娠期に歯ぐきがひどく脹れやすくなります
━そういえば、中学生のころに歯ぐきが脹れた記憶があります。
志村
思春期の女の子特有の歯肉炎だったかもしれませんね。それではまず、思春期に起こりやすいトラブルからご説明しましょうか

-思春期にご注意!-

志村
エストロゲンとプロゲステロンという、先ほどお話した女性ホルモンの分泌が活発になります。プロゲステロンの量が増えると先ほどお話したように、歯ぐきが過敏になり、すこしのプラークでもひどく炎症を起こして、赤く腫れたり出血したりするんです。
━不思議ですね。
志村
歯周病菌のひとつであるプレボテラ・インテルメディア菌は、女性ホルモンを栄養としています。それで、女性ホルモンが増えると、細菌の数も増えるわけです。
━女性ホルモンの多いところに寄ってくるんですね。
志村
そうです。ですからこの時期は、とくにブラッシングをていねいにすることをおすすめします。そして、歯科医院で定期的に歯石をとるなど、プラークコントロールを効果的に行うことが大切です。
━わかりました。
志村
それから、思春期にかぎらず、月経が近づくと、周期的に起こるホルモン量の変化で歯ぐきが腫れたり、口内炎ができるなどのトラブルが起こりやすくなります。こうしたトラブルは、月経がはじまると自然になくなることが多いです。
━口内炎がいつできるか、 日ごろ気をつけていると女性ホルモンの影響を実感できるかもしれませんね。

-妊婦さんは?-

━ところで、成熟期の女性の大きな節目というと、妊娠・出産がありますね。この時期にはどんなトラブルが起こりやすいですか?
志村
妊娠期は、女性ホルモンの分泌がかなり増えます。妊婦さんのお肌はスベスベして、とてもきれいですよね。これは女性ホルモンがさかんに分泌されているからです。
━こういうよいこともあるかわりに・・・。
志村
そうなんです。口の健康にとっては、気をつけなければならない重要な時期です。
妊娠12週~13週には、エストロゲンとプロゲステロンの濃度が上昇するんですが、このとき、妊娠初期に比べて、歯周病菌であるプレボテラ・インテルメディアという菌が、5倍にも増加します。
━そんなに増えますか。
志村
ええ。ですから、妊娠気には歯肉が炎症を起こす「歯肉炎」、それから歯肉炎がもっと進行してしまった「歯周炎」になりやすくなります。

-歯周病菌は女性ホルモンが大好き-

志村
ただでさえ、妊娠期は、つわりがあったりしてプラークコントロールがついおろそかになりがちです。それで、歯周病には、むし歯にもなりやすい面があります。そのうえ、口のなかの歯周病菌が5倍にもなってしまう。
しかも妊娠中の歯科受診については、不安感が大きいでしょう。かかりつけ歯科医がないと、妊婦さんは、つい受診せずに過ごしてしまいがちです。無理もないのですが、これはとても残念です。
━それで、出産したころから歯が弱くなったと嘆く方が多いんですね。
志村
そうなんです。受診時期を逃して重症になってしまう方もなかにはおられますからね。とはいえ、日ごろから口のなかを清潔に保ち、妊娠前に治療をすませておけば、防ぐことは十分できます。
それから、歯周病の妊婦さんの場合、早産・低体重児出産のリスクが7.5倍にもなるという報告もあります。
━それはこわいですね。日ごろから努力してプラークコントロールに励むことが大事だという訳がよくわかりました。
-妊娠中に歯が痛くなったら?-
━とはいえ、現実には、妊娠中に口のトラブルに悩まされる方もいると思うんです。そうした場合、妊娠していると、治療をすることでお腹の赤ちゃんに影響が出ないかと心配です。
志村
でも、歯が痛んだり、歯肉が腫れているのを我慢しなくてはならなかったら、つらくて、食事もままならないですよね。食事は、赤ちゃんにとっても、母体にとっても、とても大切です。
治療する時期やおもな検査、薬について、患者さんからよくあるご質問への一般的な答えをお教えしましょう。もちろん妊婦さんの体調などを考慮しなければなりませんから、詳しくは、治療する歯科医院に妊娠していることを伝えて、ご相談いただきたいと思います。

-妊婦さんの口腔のトラブルの訴え-

50.0% 歯が痛い
31.9% 歯ぐきから出血する
18.9% 口腔に不快感を感じる
13.9% 口臭が気になる
13.0% 歯ぐきが痛い
12.6% 訴えはない
9.2% その他
6.3% 口の中が乾きやすい
3.8% 歯ぐきの色が悪い
2.9% 歯茎がやせてきた
1.3% 歯が動く
7.6% 無回答
2004年女性の健康と歯周病フォーラム調べ(全国の産婦人科238件を調査)

-妊婦さんは歯の治療をしても大丈夫?-

<治療に適した時期について>
① 妊娠4ヶ月くらいまで
このころはつわりがあったり、精神的にも不安定なことがあります。また胎児もまだ安定しないので流産しやすい時期です。治療は応急処置にとどめましょう。
② 4ヶ月半~7ヵ月半
胎盤が完成して胎児も安定してきます。抜歯はふつうの場合可能ですが、なんといっても妊婦さんは疲れやすいので、長時間の処置は避けたほうがよいでしょう。
③ 8ヶ月以降
出産間近のこの時期は、ちょっとした刺激で子宮が収縮を起こし早産につながる可能性もあります。応急処置が望ましいでしょう。
<X線について>
歯科検査に用いられるX線の放射量はごくわずかなので、基本的にプロテクターをきちんとつければ問題ないとされています。撮影する側の注意としては、撮影の主軸が子宮方向に来る場合は、とくにプロテクトに気をつけることが必要になります。
<局所麻酔薬について>
歯科外来で使われる局所麻酔薬は、大量に使用されることがないので大きな影響は与えないといわれています。ただ、注射の刺激が流産を招くことがあると考えると、まだ安定期に入らない妊娠3ヶ月までは避けたほうがよいでしょう。また臨月に近い8ヶ月以降も避けたほうがよいとされています。
<薬剤について>
妊婦に対する安全性が完全に確立されている薬剤は、現状では残念ながら存在しません。そのなかでは、抗生物質のペニシリン系、セファロスポリン系は害が少ないといわれています。ただし、妊娠中毒症を起こさないよう、妊婦さんの腎機能など十分な注意が必要です。

-妊娠・出産で歯は弱くならない-

━通常の場合、むし歯治療もできるんですね。安心しました。
志村
できますよ。むし歯が痛いままだったり、歯ぐきが腫れて痛んだりでは、思うように食事もできなくなってしまいます。そのことも大きな問題です。赤ちゃんの成長のためにも、母体の健康のためにも、食事はとても大切です。妊娠期を順調に楽しく過ごすためには、歯石の除去やむし歯治療は必要なのです。
とはいえ、よほどの症例がない限り、極力X線検査や投薬は避けたいですから、応急処置を受け、出産後なるべく早く、再度受診なさるのが望ましいです。
また、女性のからだにとって、とても大切な節目をむかえているわけですから、とくに注意をしてプラークコントロールをしていただきたいです。妊娠期の歯質がとくにむし歯になりやすくなっている、なんてことは決してないんですから。

-プラークコントロールを!-

━いまにして、「知っていればなあ」と残念です。
志村
妊娠・出産以降のお口の環境の悪化は、これまでは妊婦さんのブラッシング不足や、妊娠すると歯が弱くなるんだから仕方がないといわれてきました。でもこれからは、「ホルモンステージの変化による影響を受けやすい時期だからだ」、とまずは知っていただきたいと思っています。
でも、現状では、母親学級などで口腔ケアについての指導が行われることは、まだまだ少ないんです。これはとても残念なことだと思っています。産婦人科での定期健診などでも、この時期の女性ホルモンと歯周病の関連について伝えていただけるとよいのですが。歯科医療関連の指導があまり行われていないのが現状なんです。産婦人科との連携を強めて、口腔ケア指導を広めていかなくてはなりませんね。
━そうですね。生まれてくる赤ちゃんのむし歯予防にとっても、親自身が口を清潔にして、むし歯菌を赤ちゃんにできるだけうつさないようにすることが大切だそうですし。
志村
むし歯菌であるミュータンス菌は、生まれたての赤ちゃんの口のなかにはまったくいませんからね。家族など、周囲の大人からうつってはじめて赤ちゃんのむし歯ははじまるんです。プラークコントロールは、自分のためだけでなく、家族のためでもありますね。

-更年期以降は?-

━更年期以降は、逆に女性ホルモンが少なくなってくるわけですね。そうしたときには、どんなことに気をつけたらよいのでしょう。
志村
今度は女性ホルモンが急激に減ることによって起こってくる問題もあるわけです。
個人差はありますが、40歳を過ぎたころから月経が乱れはじめ、エストロゲンが減ってきます。エストロゲンは、骨量と骨密度を保つのに重要な役割を果たしています。そのエストロゲンが減ってくると、骨がスカスカになる骨粗しょう症が起きやすくなります。
骨粗しょう症は、歯周病とも深い関係があります。歯は、歯槽骨という骨を土台にして本来がっちりと支えられているのですが、その歯槽骨は、歯周病がひどくなると、少しずつ溶けてなくなっていってしまいます。

-歯周病と骨粗しょう症-

志村
まして、骨粗しょう症で骨密度が低くなっていると、歯周病はますます進行しやすくなります。ブラッシングをていねいにして歯周病を防ぎ、大豆などエストロゲンを多く含む食品を摂って、減ってしまったホルモンを補うとよいでしょう。ただし、薬剤による過剰な摂取には注意が必要です。そのほか、骨を強くするカルシウム、たんぱく質、ビタミンやマグネシウムなどを多く含む食品を摂ることをおすすめします。
━更年期には、歯周病が進みやすいので注意が必要ということですね。
志村
はい。それから、男性でも女性でも加齢とともに唾液の分泌量が減ってきます。それは口の周りの筋肉が衰えることで噛む力が弱くなり、噛む回数が減ると唾液の分泌量が減るということも関係します。また、加齢とともに唾液の分泌能力も落ちます。
とくに女性は、更年期以降、女性ホルモンの分泌量が減ることで、口のなかが乾くのです。

-ドライマウスと女性-

━女性ホルモンは、唾液とも関係があるんですか。
志村
女性ホルモンには、からだの皮膚粘膜を保護し、うるおいを保つ働きがあります。そして、ホルモンバランスの乱れから、唾液の分泌量が減ることもあります。そのため、ドライマウスは、更年期以降の女性に多くなってくるのです。私が勤務しているNTT東日本関東病院のドライマウス外来においでになる患者さんの9割が50歳以上の女性です。
━圧倒的に多いですね。
志村
そうなんです。口が乾くと口のなかが粘るような不快感がありますが、これが慢性的になると舌の表面がひび割れたり、舌や口のなかが痛んだりします。また、食べ物が飲み込みにくくなったり、舌の痛みで熟睡できないとか、しゃべりづらかったりというような支障がでてくるわけです。
さらに、唾液には、抗菌作用や自浄作用のほか、歯の再石灰化を助けるなど、口と歯の健康を守る大切な役割がありますから、唾液が減ると、口臭が強くなったり、むし歯や口内炎になりやすくなります。

-しょうゆがしみて痛い-

━ドライマウスの影響って大きいんですね。
志村
とても大きいですね。会話がきちんとできなくなったり、おしょうゆがしみて刺身が食べられなくなったり、おかゆしか食べられないなど、ドライマウスの症状は日常生活への支障も大きいです。
ところが、日本では病気としての認知が遅れていて、「年だから」「更年期だから仕方ない」と、適切な処置がされることがほとんどありませんでした。それで、ドライマウスの症状がありながら、我慢しておいでの方も多いのが現状です。
最近では、歯科口腔外科にドライマウス外来を開設する医療機関が増えています。ぜひ我慢しないで、専門外来を受診してください。
━隠れているけれど、患者さんは意外に多いということですか?
志村
そうです。人知れず悩んでいる方は多いはずなんです。目が乾くドライアイと同じように、日本国内で800万人ほどいるのではないかと試算されています。
━そんなにいるんですか。

-症状の原因は複合的-

志村
ドライマウスの原因には、女性ホルモンの分泌の低下や加齢のほかに、ストレス、服用している薬の副作用、がんの放射線治療などの影響、糖尿病などもあります。
薬の副作用としては、抗うつ剤や精神安定剤、睡眠薬や、高血圧の治療に用いられる降圧剤のなかに唾液の分泌量を少なくする作用のものもあります。ちょうど体調の変化があったり、病気の罹患率が高まる年代で、さまざまな薬を常用する方が増えてくるころですよ。
━たしかにそうですね。
志村
年齢、持病と薬、ストレスなど、さまざまな原因が複合的に関わっているケースが多いです。とはいえ、ほかの病気の治療に飲まなければならない薬を、ドライマウスだからといって突然「飲むのを止めてください」というわけにはいきませんよね。それでは患者さんの悩みはかえって深くなってしまうかもしれません。

-原因を知ってリラックス-

志村
そこで、まずは病気の原因について知っていただき、情報不足で不安になっている気持ちをサポートします。リラックスすると、唾液はでやすくなるんですよ。緊張する場面では、口が乾きやすいでしょう。私の診療室では、まずジャスミンティーをお出しして、飲みながらお話を伺います。
そして、薬の常用を続けながら、唾液を増やす方法を総合的に指導していきます。保湿ジェルや保湿スプレーの使用法について指導し、当座の痛みを減らすことができるだけでも患者さんのストレスは激減します。そして発泡剤が含まれない歯磨き剤を使い、ガムを噛み、体液の循環をよくするために運動をし、唾液腺マッサージを行っているうちに、少しずつ症状が改善していきます。
訳もわからずに苦しんでいたころとは、表情もまったく違って、笑顔も戻ってきます。そうしているうちに、ストレスやうつの症状が軽減されて薬の服用も減る、というケースも少なくないのです。
━症状を理解することがとても大切なんですね。
志村
そうです。女性ホルモンが減ってきまいますし、そのほかにも原因としてこんなことが考えられますよ、という適切な情報が、患者さんには必要なんです。そのことで安心できるんですよ。ですから女性に多い病気について、ぜひ広く知っていただきたいです。
━ほんとうにそうですね。

-シェーングレン症候群?-

志村
ただし、こうした指導で改善しないケースもあります。それはシェーングレン症候群といって、ドライマウスの症状のなかにこの思わぬ病気が隠れている例も少なくないのです。
シェーングレン症候群は、自己免疫疾患で膠原病の一種なんです。日本では患者数は10万人から30万人とも推定されていて、関節リウマチなどと合併していることもあります。自分の涙腺や唾液腺を免疫細胞が異物として認識してしまうので、そこに炎症が起こり、涙や唾液の分泌量が極端に減るため、ドライアイやドライマウスという症状があらわれます。
患者さんの男女比は、1対14と、圧倒的に女性に多いんです。40歳代から60歳代に発症することの多い病気です。口腔検査、病理検査、目の検査、血液検査のうち2つ以上の検査で異常が見つかるとシェーグレン症候群と診断されます。
━どんな治療法があるのですか?
志村
いまのところ、根本的な治療は見つかっていません。対症療法が中心になります。内科では全身の管理を、歯科では塩酸セビメリン水和物を処方してドライマウスの治療をします。眼科でもドライアイの治療をします。こうして各科が連携して治療をすることが必要です。

-ドライマウス治療は専門分野の連携が必要-

━総合的な治療と指導が必要なんですね。
志村
そうです。ドライマウスの治療にあたるなかで、私は他の医療分野とのネットワークに必要性を実感してきました。たとえば、糖尿病の患者さんには、そちらの治療を優先していただかなくてはなりません。歯科医だけでは多くの患者さんを救えないのではないかと考えたからです。複合的には絡まりあう原因の全体像を把握して、理解し、医療的な処置も総合的に行っていくことが大変重要なんです。
そこで昨年、歯科医、内科医、耳鼻科医、産婦人科医、看護師、薬剤師に加えて、咀嚼学の専門家、管理栄養士、料理研究家などが参加するドライマウスネットワークを設立し、代表になりました。

-ドライマウスネットワーク-

━それぞれの専門分野の研究の情報交換ができるんですね。
志村
医学的な情報交換だけでなく、飲み込むことがつらくなっている患者さんには、おいしくて食べやすい料理を薬膳料理の専門家中村きよみさんが考えてくれます。そして、スポーツ科学の鈴木正成先生はドライマウスの改善に役立つ体操を考案してくださる、という具合に、あらゆるアプローチができるわけです。
━しかも、とても楽しそうです。
志村
ええ。ほんとうに楽しいですよ。昨年末には、患者さんに参加していただいて、「ドライマウスネットワーク・ランチセミナー」を開きました。ドライマウスについてのレクチャーを内科医に菅井進先生から、ドライマウスの方のためのおいしいお料理の試食と作り方のレクチャーを中村きよみさんから、そして口腔ケアのコツについては私からお話しました。
━患者さんにとって楽しくておいしくてためになるわけですね。
志村
(笑)、そうですね。患者さんにとっては、同じ悩みを持つ人同士の交流の場にもなるんです。
━励まされるでしょうね。
志村
そういう場所が必要なんですよね。情報不足は患者さんに孤独を作り出してしまうでしょう?日本では、女性に多い病気への理解が遅れていますから、ぜひ広く知っていただきたい。そして、若いころから、更年期を過ぎてから、そうした情報を活かしていきいき過ごす毎日に役立てていただきたいと思います。

-ドライマウスの症状を和らげる-

ドライマウスのつらい症状を和らげる、保湿ジェルの使い方
①指先に少量とり、舌におきます。
②舌で口の中全体にいきわたるようにします。入れ歯をお使いの方は入れ歯の内面に塗ると楽になります。
③夜間はとくに(健康な方でも)唾液の分泌が減ります。寝る前に塗ると効果的です。
「乾いているな」と思ったら随時使用できます。副作用がありませんので安心して使ってください。ドライマウスの症状のつらさは、感想感と舌の痛みです。ジェルなどのケア用品の使用でつらい痛みや不快感を和らげることがストレス緩和にもなります。ぜひ試してください。口の中全体に舌でジェルをいきわたらせることは、唾液腺の機能を高めるための舌のストレッチにもなります。
(Dr.志村対談集より)

乳歯のむし歯がひどいので永久歯こそ大切にしたいと思いますが、そんなことできるでしょうか?

Question
乳歯のむし歯がひどいので永久歯こそ大切にしたいと思いますが、そんなことできるでしょうか?
Answer
もちろんです。まずは正しい生活スタイルを身につけること。今日からはじめましょう。
むし歯は、ひとつの原因で起きるのではなく、複数の因子がからんだ疾患です。次の4つの対策を、できるところからはじめてください。
①「甘いもののダラダラ食べ」を止める。
一番重要で、一番難しいのがこれ。赤ちゃんの頃から飴をもらって食べる習慣はありませんか。あるいはのどが渇いたら、水よりもジュースやイオン水を好んで飲んでいませんか。甘い物はデザートとして食事の直後にたっぷり与えましょう。手作りのおやつをドドーンと与えて満足させ、他人から飴をもらわない子どもにしつけられればベスト。のどが乾いたら「水」か「お茶」を飲ませます。これが守れると口の中のベトつきがだいぶ減ります。
②フッ素入りの歯みがき剤を乾いた歯ブラシに適量つけて、朝晩2回ていねいにみがく。
自分で磨かせた後で大人が行う、仕上げ磨きは必須です。
③虫歯の悪玉菌、ミュータンス菌を親子ともに口の中から減らす。
ミュータンス菌がつくるプラークは非水溶性なので、みがいてもみがいても落ちないレンジ汚れのような粘着度があります。毎食後、キシリトールガムかタブレットを食べることで、ミュータンス菌の数は減っていきます。ただし、歯みがきができていることが前提です。
④かかりつけの歯医者さんをもち、定期的に検診を受ける。
何でもなくても、15歳までは定期健診を受け、フッ素塗布やシーラント処置を受けましょう。
以上が実行できたら、ピカピカの永久歯に育ちますよ。がんばって!

ケガを防ぐためにはマウスガードが効果的だそうですが、どれくらいの効果があるのですか?

Question
ケガを防ぐためにはマウスガードが効果的だそうですが、どれくらいの効果があるのですか?
Answer
ある年の高校ラグビー全国大会でマウスガードを義務化したところ、ケガが減ったそうです。
マウスガードには、スポーツの競技中などに起こる口の中や周りのケガ、アゴの骨折、頚部へのダメージ、脳震盪(のうしんとう)などを予防する効果があります。マウスガードがなぜケガやダメージを予防する効果があるのかというと、いわばショックアブソーバーのはたらきをするからです。すなわち、弾力あるマウスガードの素材がクッションとなり、衝撃を吸収するのです。さらに、マウスガードを装着し、グッと噛みしめると、噛みしめたところの面積が広がります。その結果、衝撃が広く分散されることになります。1か所に集中して衝撃が伝わると、その歯にダメージが及んだり、アゴが骨折する要因になりかねません。
では、実際にどれくらい効果があるのかを調べた調査によると、3つの高校のラグビー部(計205名)で、マウスガード未使用時には、6か月間で87件の口の中や周り、アゴの骨折、脳震盪などを含めた外傷例がありましたが、全員マウスガードを使ったら6か月間で26件にまで減少しました。同じような結果は、他の調査でも数多く報告されています。また、最近では科学的根拠に基づいたマウスガード有効性を報告した研究もあります。
もちろん、マウスガードの材料がもっている許容範囲を超えるような大きな力を受けた場合は、ケガをしてしまいます。しかし、その程度や範囲は間違いなく小さくなることはご理解いただけるのではないでしょうか。
スポーツは、安全に行ってこそ楽しいものであり、健康づくりにも役立つのです。そのためにも、マウスガードを使いましょう。

デスクワークでずっと下を向いて作業をしていると、顎関節症が悪化すると聞きました、本当ですか?

Question
デスクワークでずっと下を向いて作業をしていると、顎関節症が悪化すると聞きました、本当ですか?
Answer
その可能性はあります。歯を食いしばることが多く、関節に負担をかけてしまうからです。
あなたが下を向いて、書いたり、パソコンを使ったりといったデスクワークをしている姿を想像してください。その時にあなたの歯はどこにありますか?通常は上顎の歯と下顎の歯はふれあうことはなく、空間を形成していて、その間に空気や舌が入り込むような状態になっています。しかし、すごく面倒な作業や複雑な作業をしていると、思わず歯を食いしばっていることが多くなります。食いしばりが一過性ならとくに問題はないのですが、その状態が長時間、長期間に及ぶと、顎関節症になったり、悪化させたりするのです。これはデスクワークに限らず、炊事など家庭での家事労働でも同じくらい、悪化の原因になりやすいのです。
これらの作業の何が問題なのかというと、実は下を向いて作業していることがいけないのです。うつむき加減で作業をしていると下顎は顔の前のほうに下がっていきます。唾液もよだれとして出やすくなるでしょう。これを避けるために、 歯を食いしばってしまうことが多いのです。この状態が長引くと、関節に器械的、生物学的負担をかけるので、ついには関節組織が壊れてしまいます。さらにかむために使う筋肉も疲労して筋肉痛が起こり、それが顔全体の痛みとして認識されることが多くなります。
予防法は簡単で、デスクワークでも家事でも、たとえばおしゃべりをするとか、歌を歌いながら作業をするとか、場合によってはガムを噛みながら作業をするなど、食いしばらないための工夫をすればよいのです。

矯正中の歯みがきでは、ふつうの歯みがきとはちがった注意が必要ですか?

Question
矯正中の歯みがきでは、ふつうの歯みがきとはちがった注意が必要ですか?
Answer
矯正中は歯みがきが難しい状況になるので、時間をかけて1本ずつみがくようにします。
一般的な矯正装置は、治療中は取り外しができず、歯に装着されたままになるので、一時的にせよ歯みがきが難しい状況になります。そこで、次の①~⑤に注意して、時間をかけて1本ずつみがくように指導しています。
① 最初、歯みがき剤はつけずにみがく。最初からつけると泡がでてさっぱりした気がするので、実際はみがけていなくてもみがいた気になってしまいます。最後に歯みがき剤をつけて仕上げみがきをするように。
② 手鏡を見ながらみがく。洗面台のような大きな鏡では、奥のほうがよく見えません。自分専用の手鏡を使うとよいでしょう。
③ 補助歯ブラシの使用。矯正装置は複雑な装置です。人によっては普通の歯ブラシだけでは上手にみがけない場合があります。細かいところは、インタースペースブラシなど小回りのきく小さなブラシを使います。
④ デンタルフロスの活用。歯と歯の間(隣接面)はなかなかみがけない場所。面倒でもフッ素つきのデンタルフロスを利用しましょう。
⑤ 洗口剤の利用。本人はちゃんとやっているつもりでも、残念ながらみがけていないこともあります。そこで、寝る前にフッ素含有の洗口剤でブクブクゆすぎましょう。
おすすめ歯ブラシは、小回りがきくようにヘッドは小さめで、毛の硬さはやわらかめ。硬いものは歯肉を傷めるので避けましょう。握り方は必ず鉛筆もちで、ていねいに1本ずつ磨いてください。矯正中の歯ブラシは装置のせいですぐ傷み、寿命がはやいのでこまめに取り替えましょう。

笑うと奥歯の金属が光って見えてしまいます。

Question
笑うと奥歯の金属が光って見えてしまいます。目立たなくするにはどんな方法がありますか?
Answer
金属の部分が小さいなら歯の色をしたコンポジットレジンやセラミックでおきかえられます。
気軽に始められる順にお答えしましょう。まずは、メイクアップにひと工夫。口紅を肌に近い淡い色にして目元を強調したメイクをすると、見る人の視線を口元から目元にそらす効果がありますよ。
次は、金属部分に歯のマニキュア(ホワイトコート)を塗り、金属色を隠す方法です。費用は1本2千円程度、耐久性は1~3ヵ月です。欠点は噛む面や下の歯に使えないため、口を大きく開けた時には金属が見えてしまいます。
ここからは、歯の金属をはずして行う処置の紹介です。はずした金属部分が小さいなら、コンポジットレジンと呼ばれるプラスチックのような材料を直接詰めることが可能です。これですとその日のうちに歯が白くなりますし、費用も保険内です。しかし、金属が大きい場合、削って歯を整え、次の来院時に、コンポジットレジンかセラミックスで作っておいた白い詰め物を、歯に接着します。この処置は保険外のことが多いです。
金属が冠の場合、神経の治療や土台づくりが必要となる場合が多く、来院回数が多くなります。しかし、セラミックスなどの冠で歯を覆ってしまうので、仕上がりはもっともきれいです。
どの材料や方法が適しているかは、噛み合わせなどの考慮もありますから、金属をとる前に先生と相談しましょう。笑うと見える金属の部分を一掃するのは、確かに高い治療費がかかる場合が多いです。でも、最高の笑顔で笑えるとしたら、それだけの価値があるのではないでしょうか。

4歳になる息子の口が臭くて。

Question
4歳になる息子の口が臭くて。むし歯もなく、歯や口に問題はないと思うのですが、ほかに原因があるのかしら?
Answer
1日中口臭が強いのでなければ生理的口臭の可能性が高いです。あまり神経質にならないように。
「むし歯がないのに口臭がある」のは不思議かもしれませんが、実際に調べてみると、意外にもむし歯のない子どものほうが口臭が強いようです。もちろん、歯に大きな穴があいて神経が露出したり、食べ物が詰まったりすれば、むし歯も口臭の原因になりますが・・・・。
坊やの場合、1日中口臭が強いわけではないはずです。いかがでしょうか?朝食前とか、幼稚園から帰ってきた時、そして外で遊んで帰ってきた時などに臭いませんか?このような状況でしたら、生理的口臭の可能性が高いです。何も飲み食いをしていない時間が1~2時間続きますと、細菌や粘膜の垢が増え、生理的口臭が出てきます。きちんとした証拠はないのですが、理論的には、歯の生え変わりも口臭の原因となります。
根本的な対策としては、まず口臭の原因となる歯肉炎や大きなむし歯がないか、歯医者さんで調べてもらってください。そして半年に1回は、必ず歯医者さんのチェックを受けましょう(定期的な歯科受診を坊やの一生の習慣にしてあげましょう。一緒にお母さんも健康のためにチェックを受けるとよいです)。また、舌が汚れていたら、舌ブラシで時々掃除してください。万一、1日中臭うとか、鼻息が臭い、吐瀉物に近い臭いがする、かび臭い、魚臭い、その他、特殊な臭いがするようでしたら、小児科医に相談しましょう。
お母さんにお願いしたいことは、神経質になりすぎないことです。親が気にしすぎて、萎縮してしまっている子どもを時々見かけます。子どもの心にはよくないことです。

全部歯を抜いて総入れ歯にしたら味がよくわかりません。

Question
全部歯を抜いて総入れ歯にしたら味がよくわかりません。どうしてなのでしょう?
Answer
総入れ歯の大きさや熱が伝わりにくい素材も原因の一つです。
味覚には、甘い(あまい)・酸(すっぱい)・苦(にがい)・鹹(しおからい)・辛(からい)があり、さらに「うま味」や「コク」などが加わり、複雑な組み合わせで味が形成されます。さらに味覚に影響する要素に、摂取した食品そのものの性状があります。温度(例:熱いスープ、アイスクリーム)、硬さ(例:固焼きせんべい、プリン)、歯切れ(スルメ、レタス)など、複雑な多岐にわたる「食感」です。
味覚を感じるための一番重要な器官は、舌の表面にある味蕾(みらい)です。また、唇、頬、ノド、の感覚もきわめて鋭敏です。総入れ歯は、上下の顎の土手(顎堤)を中心として、粘膜の大部分を覆うような形態をしているのが特徴です。入れ歯の歯ぐきに相当するピンク色の部分(義歯床)はプラスチック(レジン)でできていますが、入れ歯の安定やさまざまな外力に耐えるために、一定程度の厚みや長さを確保しなければなりません。しかもレジンは熱を伝えにくいため、レジンで粘膜を覆われるとどうしても味覚に影響することになります。また、舌ざわりも味覚に大きく影響します。
解決方法としては、入れ歯の強度や安定性を損なわない程度に義歯床を調整し、まず慣れることが必要かと思います。上顎(口蓋)部が金属でできた入れ歯(金属床)も選択肢の一つでしょう。金属床はレジン床に比べて薄く設計でき、熱の伝導性がよいため、熱いものは熱く、冷たいものは冷たい快適な食事ができます。しかし、金属床は保険がききませんので、費用の点で、かかりつけの先生とよく相談するようにしてください。